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日本製鉄のUSスチール合併問題について、米国政府は慎重姿勢である。だが、この合併は「ベスト」とする見方が提示されている。米企業同士の合併でなく、独禁法上の問題もないことや、日鉄の技術力によって米鉄鋼業が競争力を回復できるという視点だ。何よりも日米同盟をより確実にする上でも望ましい、としている。 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月25日付)は、「日本製鉄を冷遇するバイデン氏の愚」と題する寄稿を掲載した。筆者のウィリアム・チュー氏はハドソン研究所の日本チェアフェローである。 

ホワイトハウスは12月21日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを150億ドル(約2兆円)で買収する計画について「真剣な精査に値するように思われる」と表明した。この声明は、ジョン・フェターマン上院議員(民主、ペンシルベニア州)ら保護主義者の議員たちから非難の声が上がった後に発表された。同議員らは、労働組合や国家安全保障を巡る懸念を引き合いに出し、買収を阻止すると明言している。こうした反日本企業の発言は1980年代の状況を思い起こさせる。当時は、冷戦期に極めて重要だった日米の二国間同盟が両国間の通商摩擦によって弱体化する恐れがあった。

 

(1)「日本製鉄による買収合意に対する米国の政治家からの不当な批判は、日米関係を悪化させ、通商や経済安全保障の面での連携を弱める可能性がある。ホワイトハウスは経済・軍事協力に関して同盟諸国と連携すべきであり、これらの国を批判すべきではない。日本製鉄による買収への反対意見は精査に耐えられるものではない。USスチールの主な労組である全米鉄鋼労組(USW)の幹部にとっては、米国内の同業クリーブランド・クリフスへの売却の方が望ましいようだ。彼らは日本製鉄が以前の労働協約を維持しないだろうと主張している。だが日本製鉄は米国で40年間操業しており、米国の労組と協力してきた経験があるほか、USスチールの労組との約束を尊重すると述べている」 

日鉄とUSスチールとの合併は、政治家と労組が反対するという屈折した形だ。感情論である。独禁法上の問題ではない。 

(2)「日本製鉄への身売りによって、米国の消費者は守られる。USスチールがクリーブランド・クリフスと合併していたら、新会社は自動車業界への鉄鋼供給を独占し、電気自動車(EV)に必要とされる鉄鋼のすべてを供給していたはずだ。競争の欠如は、消費者がEVに支払うコストの上昇につながる公算が大きい。この身売りが国家安全保障上の脅威になるとの主張も説得力がない。連邦議会の売却反対派はジャネット・イエレン財務長官に対し、対米外国投資委員会(CFIUS)を利用して売却を阻止するよう求めている。これは筋が通らない。日本は中国と違い、米国の重要な同盟国だ。米下院の中国共産党に関する超党派の特別委員会は今月、親密な同盟国を対象とするCFIUSの「ホワイトリスト」に日本を加えることを議会に勧告した 

下線部の指摘は重要である。米下院の中国共産党に関する特別委員会は、日本を「ホワイトリスト」に加えて優遇すべきと議会に勧告している。

 

(3)「既にこのリストに入っている国には、オーストラリアとカナダ、ニュージーランド、英国がある。このリストに加えられると、資格のある投資家は、非支配的な取引、不動産取引、強制的な報告義務に関してCFIUSの管轄権限の対象外になる。日本製鉄は米国での生産を維持する計画であり、これは米国の経済安全保障の強化につながるだろう。中国の鉄鋼メーカーは世界市場を支配しており、世界のトップ13社のうち9社が中国企業だ。今回の買収が実現すれば世界3位の鉄鋼メーカーが誕生する。日本製鉄は、中国メーカーが国外で余剰な鉄鋼を安値で販売することで生じる市場のひずみから米国の消費者を保護するだろう」 

ホワイトリストに入っている國は、オーストラリア・カナダ・ニュージーランド・英国である。これに、米国を入れると「ファイブ・アイズ」(機密情報共有国)であり、CFIUSの管轄権限の対象外になっている。米下院の中国特別委員会は、日本をこれに加えよと勧告しているほどだ。日鉄とUSスチールの合併は当然、承認されるべき案件である。

 

(4)「皮肉なのは、バイデン政権の産業政策が今回の合意をもたらしたという点だ。日本製鉄はUSスチールの買収を正当化できる根拠として、インフラ投資法によって今後の鉄鋼需要が高まり、米国内の生産が刺激されることを挙げている。同社はインフレ抑制法からも恩恵を受ける。同法は、再生可能エネルギーのプロジェクトに税控除やその他の支援策を提供しており、こうしたプロジェクトの設備の建設に鉄鋼が必要になる。バイデン政権がこれまで米国の同盟・友好諸国との貿易・経済安全保障面での協力の機会を逃してきたことを考えると、日本製鉄の試みは注目に値する。インフレ抑制法はクリーンエネルギーへの転換に弾みをつけることを目指していた。しかし実際には、恐らくEV技術よりクリーンな日本のハイブリッド車技術を選好するのではなく、中国が支配的な地位を占めるEV用電池関連の供給網への米国の依存度を高めている 

下線部は、日鉄・USスチール合併がバイデン政権の推進したインフレ抑制法に則っているという事実だ。バイデン政権は、自らの政策によって生まれた日鉄・USスチール合併を拒否することがあれば、きわめて矛盾したことになる。

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