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台湾総統選は、1月13日に投開票が行われ40%の得票率で民進党候補の頼清徳・副総統が当選確実となった。同日午後8時半(日本時間同9時半)過ぎに記者会見を開き、勝利宣言した。中央選挙委員会によると、午後8時(日本時間同9時)段階での頼氏の得票率は40.%。国民党・侯氏(33.%)、台湾民衆党・柯氏(26.%)をリードしている。

 

中国は、一貫して国民党候補を支持してきた。それだけに、民進党の政権維持を口実にして、台湾へ露骨な経済的、軍事的な威圧を加速する可能性が指摘されている。台湾にとっての本当の試練はこれからでないかと見られる。

 

米政府高官は1月10日、13日の総統選後に非公式の代表団を台湾に派遣すると表明した。具体的な時期やメンバーは「近く発表」としているが、この動きにも中国は神経を使っている。就任式の5月までの間に、中国は何を引き起こすか。外交・安全保障専門家の間では関心を集めている。

 

中国が、民主的に選ばれた台湾の次期総統に対して、気に入らないという理由で圧力を加える事態があれば、自殺行為に等しい事態となろう。ロシアは、ウクライナ政権打倒で侵略戦争を始めた。習氏は、「熱い戦争」でなくても台湾へ経済制裁を加えるようなことがあれば、西側諸国との溝はさらに大きくなって、中国経済へ不利に働くことは間違いない。

 

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月9日付)は、「台湾総統選が重要な理由」と題する社説を掲載した。

 

台湾海峡は世界の戦略地政学上の火種の一つとなっているため、今回の総統選はいつになく重要な選挙だ。本土の中華人民共和国は数十年にわたり台湾を併合する決意を示してきており、習近平国家主席は中国政府の主張を一層強硬に訴えるようになっている。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、大きな独裁国家が規模の小さな民主主義の隣人を侵略したいとの誘惑に駆られる可能性があるもう一つの場所として、台湾に注目が集まっている。

 

(1)「世論調査でトップに立つ与党・民進党の総統候補、頼清徳氏は、台湾の民主的な自治を声高に擁護するという民進党の伝統を受け継ぐことを約束している。頼氏は、任期が残りわずかとなった現職の蔡英文総統の下で副総統を務めている。蔡氏の政策は、米国などの同盟国と関係を強化する一方で、中国との関係を幾分冷え込ませるものだった。この問題に対する台湾の各党の姿勢には重要な差があるが、その差を誇張すべきではない。世論調査で2位につけている野党・国民党の侯友宜氏は、中国に対して、より融和的なアプローチを取ることを約束している。以前に国民党が政権を担った時には、中国との貿易関係が改善し、中国を刺激する可能性が高い発言が減るという特徴があった」

 

総統選を争った3候補の共通点は、中国との統一を否定していたことだ。その意味では、誰が当選しても、台湾の政治的な位置に変化はないはずであった。それでも、習氏は国民党にテコ入れしていた。それが、有権者の反感を買ったことは言うまでもない。台湾の有権者は、高い政治意識を持って臨んでいた。

 

(2)「侯氏の主張によれば、同氏も国民党も、台湾を中国本土と統合する政策は目指していない。侯氏は、中国と貿易・投資関係を改善して経済を拡大させながら台湾の民主的主権を維持する上で、自身が最良の候補であることを示そうとしている。第3党(民衆党)の柯文哲氏も同じ姿勢を示している。医師である同氏は、自身について、より実務型のアプローチによって民主的な統治の向上と台湾海峡情勢の改善を達成できる人物だと訴えており、同氏の新鮮な存在は若い有権者を引き付けている」

 

第3党の柯文哲氏は、総統選終了後は柔軟に対応すると発言している。次期総統選を目指す意思が明らかであり、民進党への協力もあり得る余地を残した。

 

(3)「予想通り頼氏が勝利すれば、中国政府は、台湾の有権者が中国共産党の意に従わない姿勢を示した際の常として、過剰なほどの怒りを示す可能性が高い。コメンテーターたちは、そのような選挙結果を(中国に対する)挑発行為であるかのように扱うかもしれない。中国は既に、世論調査で頼氏優位の流れが固まる中で、台湾上空に偵察用気球を飛ばすなどの威嚇行為を強めている」

 

習氏は、台湾へ大人の対応をしないと西側諸国から低評価される危険性がある。経済的にますます追い詰められるのだ。

 

(4)「中国共産党が侮辱と感じているものは、頼氏の政策ではない。台湾の有権者らは、緊張を高めようとして頼氏を総統に選ぶわけではない。中国語圏で民主主義の地域が繁栄できる実例としての台湾を、中国政府が容認できないことが問題だ。その民主主義の地では、有権者の投票が政治的意見の違いに決着を付ける。台湾海峡で衝突が起きるとすれば、そうした問題が原因となるだろう。投票所に向かう台湾の有権者たちは、そのことを知っている」

 

下線部の指摘は重要である。習氏にとっては、同じ民族である台湾が民主政治で発展していることを認めがたいのであろう。「中国繁栄・米国衰退」と声高に叫んできた以上、台湾の繁栄を許せないとすれば、もはや言うべき言葉もない。