米国は、長年にわたって中国製太陽光パネルの輸入障壁をどんどん高くし、これが国内の供給業者を保護する最善の策だと主張してきた。だが、現実には中国の太陽光パネル大手は、米国内での生産を目指して工場建設計画を進めている。米国は、2022年のインフレ抑制法施行で太陽光パネル生産に対する手厚い補助金が導入された。これを受け、パネル工場建設ラッシュが起きている。中国太陽光パネルメーカーも、このラッシュに潜り込もうとしているのだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月8日付)は、「米の太陽光パネル国産化、恩恵は中国メーカーに」と題する記事を掲載した。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の分析によれば、インフレ抑制法成立以降に発表された新設の太陽光パネル発電能力約80ギガワットのほぼ4分の1に、中国に本拠を置く太陽光パネル企業が関わっている。その結果、これらの企業は政府補助金の恩恵も大きく受けている。WSJの試算では、これまでに発表された太陽光パネル生産施設の建設が実現した場合、これら企業が手にする補助金の合計は年間14億ドル(約2080億円)にも上るとみられる。
(1)「このような工場の多くは、米国の基準で見ると巨大で、建設のスピードも速い。年内には中国の巨大企業が後ろ盾となる新工場が少なくとも4カ所、操業を開始する予定だ。米国が昨年設置したと推測される太陽光発電施設の発電能力は過去最高の33ギガワットに達したが、新工場が完成すれば、その半分を超える発電能力が新たに加わる。中国企業からの関心が急速に高まっていることで、米国では賛否両論の複雑な反応が生じている」
中国が、太陽光発電パネルで強みを持っているのは、素材からの一貫生産体制を築いていることにある。太陽光発電は現在、日本によって開発中であるフィルム状の超極薄電池「ペロブスカイト」に置き換わるまで、「中国の天下」が続きそうだ。
(2)「業界ウオッチャーの推測によると、世界の太陽光パネルの80%以上が中国国内で生産されている。残りの大半は、中国に本拠を置く大手メーカーが出資および契約する形で、東南アジアで生産されている。こうしたメーカーは、米国で迅速に工場を設置するのに必要なノウハウ、供給業者や資金力を持ち合わせており、地元経済や米国の野心的なクリーンエネルギー導入目標達成に貢献している。しかし米政府の補助金は、クリーンエネルギー分野で中国への依存を軽減するためのものでもあった」
世界の太陽光パネルの80%以上は、中国国内で生産されている。それだけ、コストダウンのノウハウを確立していることになる。
(3)「現在、米国での拠点づくりを進めている中国大手メーカーの一つが、隆基緑能科技(ロンジ・グリーンエナジー・テクノロジー)だ。同社は再生可能エネルギー開発会社の米インベナジーと合弁会社を設立しており、向こう数週間以内に太陽光パネル生産開始を見込んでいる。米国の一部メーカーはこうした動きを歓迎している。中国勢の対応は極めて機敏で、彼らの生産するパネルは非常に安価なため、関税だけで彼らに対抗しようとしても、成功が長続きすることはなかったためだ」
中国の太陽光発電パネルが、米国で生産されることによって、米国自身が経済的にプラスを享受できるという意見がある。
(4)「米政府補助金の受給を中国の太陽光パネル、電池メーカーに認めることは、国内のサプライチェーン構築の取り組みを損ない、米国のエネルギー安全保障を脅かすという声が、対中強硬姿勢を強めるグループから上がっている。キャロル・ミラー下院議員(共和、ウェストバージニア州)は、「インフレ抑制法が中国企業に利益をもたらし、米国民が納めた何十億ドルもの税金をわれわれの敵に与えるための法律だという、誤った解釈がなされつつある」と述べる。ミラー下院議員とマルコ・ルビオ上院議員(共和、フロリダ州)は昨年12月、こうしたクリーンエネルギー関連メーカー向けの補助金について、中国企業の受給を実質的に阻止する内容の法案を提出した」
米国民の税金が、「敵」である中国企業へ与えられることは、感情的に認めがたいという反対論もある。政治的にみた中国は、すでに米国の敵という位置づけになっている。
(5)「バイデン政権の当局者は、インフレ抑制法によって、米国は太陽光パネルのサプライチェーンを構築し、中国が支配的な生産シェアを握るというトレンドを崩すことに成功しているとの見方を示している。米国には外国からの投資が国家安全保障上の懸念を引き起こさないようにするための手順があると言う。米国は2022年、厳格な強制労働防止法を施行し、中国西部の新疆ウイグル自治区で生産された高純度多結晶シリコンを主原料とする太陽光パネルの輸入を事実上、停止した。その後、天合光能(トリナ・ソーラー)は米国や欧州のサプライヤーからシリコンを購入するようになった」
中国企業が、米国内で太陽光発電パネルを生産することは、米国いとって中国企業に足かせをはめことになる。米国政府は、こういう判断であろう。太陽光発電パネルが、輸入で賄われるよりも米国内で生産するほうが「人質」にとって安全という意味だ。
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