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TSMC熊本工場が布石

九州で設備投資ブームへ

世界で激しい陣取り合戦

韓国半導体は迷子になる

 

世の中の巡り合わせは、不思議なものである。好循環が始まる段階になると、予想もしなかったことが同時に押し寄せてくる。現在の日本経済は、こうした予期せざる「幸運」が重なり合っている。だが、悪循環過程へ嵌まり込むと、全てが逆風にさらされる。日本経済は、この両過程を経験しつつある。

 

日本半導体は、1980年代半ばに世界シェア50%強を握る「絶対王者」であった。それが、日米半導体摩擦に巻き込まれこと。バブル経済が、崩壊して企業体力の衰弱と急激な円高に翻弄されたこと。こうした事情によって、現在の日本半導体シェアは、10%にとどまっている。だが、米中対立という国際情勢の激変によって、日本半導体が不可欠な位置を占めるようになった。日本半導体への逆風は、一挙に順風へ変わったのだ。半導体が、国際戦略製品であることを裏付けている。

 

日本半導体が、1980年代半ばに世界シェア50%強を握れたのは、半導体設備・半導体素材・半導体製品において一貫生産体制を確立していたからだ。半導体製品のシェアは、その後に急落したものの半導体設備や半導体素材は国際競争力を維持している。これが、半導体製品復活への手がかりになった。半導体基幹部分が健在であることが、半導体製品でも復活を早める大きな理由になっている。「腐っても鯛」なのだ。

 

TSMC熊本工場が布石

台湾の半導体企業TSMC(台湾積体電路製造)の熊本第1工場が2月24日、開所式を行った。引き続き第2工場建設計画を発表した。24年中に工事へ着手し、27年末に操業開始予定である。

 

日本政府は、引き続き財政支援計画を発表した。第1工場に最大4760億円を補助しているが、第2工場は約7300億円を支援する。両工場で、財政支援は1兆2060億円に達する。これだけの巨額支援は、無条件で出されている訳でない。次のような条件がTSMCへ付けられている。

1)10年間は撤収しない。

2)製造装置と素材の半分以上は日本国内で調達する。

3)半導体供給が難しい状況でも増産する。

 

前記の3条件をみると一見して、TSMCに負担となるような項目はない。

1)10年間撤収しないは、補助金受領の単なる条件である。TSMCが巨額投資して撤収する理由がないからだ。そのくらいの判断なら、最初から工場を建設しまい。

2)日本で製造装置と素材の購入は不可欠である。これも、TSMCにとって負担ではない。日本から購入しなければ、操業できないからだ。

3)が、実は「意味深」である。「半導体供給が難しい状況でも増産する」とは、具体的にどのような事態を想定しているのか。天変地異が起これば、操業継続は不可能となる。これは当たり前で、TSMCへ強制できる話でない。となると、具体的にどのような事態を想定しているのか。この点が、問題のポイントになる。

 

TSMCは、熊本第1工場で24年10〜12月期の量産開始を目指し、回路線幅12〜28ナノ(10億分の1メートル)の半導体生産を計画する。28ナノメートルの半導体は旧世代(成熟品)とされている。自動車や家電などで大量に使用されている半導体だ。第2工場では27年末に国内最先端の回路線幅6ナノメートルなどの半導体を製造する予定である。つまり、熊本第1・第2工場は6ナノ~28ナノ半導体を生産するが、成熟品半導体も製造するのだ。ここが、重要な意味を持っている。

 

成熟品半導体は、中国が世界シェア3割を狙っているとみられている。先端半導体は、米国の輸出規制によって製造が不可能であることから、中国は成熟品半導体で世界供給を左右する重要な位置を狙っていると推測されている。これが現実化すると、中国が外交手段として半導体供給制限をちらつかせ、「パンデミック下」の半導体不足と同じ事態が起こり兼ねなくなる。これは、西側諸国にとって悪夢の再来である。日台連合によって、日本が成熟品半導体の世界供給基地になる以外、先に経験したような混乱を防ぐ道はない。

 

この点が、極めて重要である。世界半導体業界団体SEMIは、世界の23年半導体装置売上高が、前年比6.1%減の1010億ドルと試算している。このように、世界の半導体企業が設備投資を控えていたのだ。一方、23年の中国半導体装置輸入額は、前年比14%増の約400億ドル(約6兆円)にも達する。中国が、世界半導体製造装置の4割を輸入したのだ。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月27日付)が報じた。

 

中国が、旧世代半導体で世界の主要生産基地を目指していることは確実である。これが、西側諸国にとって脅威になるのは、既に経験済みである。日本が、台湾と組んで中国のシェア上昇を阻止することで、世界の旧世代半導体の安定供給を保証するのだ。(つづく)

 

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