これまで、「アップルカー」へ大きな期待が掛っていた。だが、EV(電気自動車)の将来性は明るくないことから撤退することを決定した。代わって、経営資源はAI(人工知能)開発へ向けることになった。アップルが、EV開発を放棄したのはEVの将来性がバラ色でないことに気づいたこともあろう。
ブルームバーグ通信は21年、アップルが自動運転EVを25年にも発売する可能性があると報じていた。その後は、開発の遅れをたびたび報じており、24年1月には発売が早くとも28年になると伝えた。搭載する技術も高度な自動運転ではなく、高速道路での運転支援などにとどまると報じていた。以上のように、「アップルカー」と銘打って発売できるEVが開発できなかったことが、撤退理由であろう。
『ブルームバーグ』(2月28日付)は、「EVよりAI、決断下したアップル-経営資源集中し巻き返し図る」と題する記事を掲載した。
米アップルは自動運転車の開発を中止することで、巨額になるとみられていた潜在的な売上高と、ある幹部が「究極のモバイルデバイス」と呼んだプロダクトを販売するという夢をあきらめる。
(1)「アップルが今望んでいるのは、生成人工知能(AI)や複合現実(MR)ヘッドセットなど他の大きなプロジェクトがそうした収益機会の逸失という穴を埋めることだ。アップルは2月27日、電気自動車(EV)を開発するという10年がかりの取り組みを断念すると社員に伝え、スタッフの一部をAI向けに配置転換した。この決定は、今後の事業方針を巡り最高幹部と取締役会が数カ月にわたり会議を重ねた後に下された。ジェフ・ウィリアムズ最高執行責任者(COO)とプロジェクト責任者のケビン・リンチ氏は15分足らずのミーティングで約2000人のチームにこのニュースを伝えた」
アップルは、自動車を完全に自律走行させるのに十分強力でエネルギー効率の高いAIシステムを構築しようと考えていた。それが、技術的に不可能であることを認識したようだ。ただ、AIシステム開発に膨大なコストを掛けてきたので、AIの技術的蓄積を幅広いAI部門へシフトさせ、収益化を図るものとみられる。
(2)「アップルの結論はこうだ。同社の未来は、自動運転機能を搭載した10万ドル(約1500万円)のEVを売ることにかかっているわけではない。その代わり、オープンAIやグーグルのチャットボットが消費者や投資家の想像力をかき立てる中で、生成AI業界のライバルに追い付くことに集中する。また、この方針転換によってアップルは、まだ発展途上の製品であるMR対応のゴーグル型端末「Vision Pro(ビジョン・プロ)」をメインストリームでヒットさせることに焦点を絞ることができるようにもなる」
アップルはEV開発を中止して、MR対応のゴーグル型端末を軌道にのせる技術開発へ全力投入する。
(3)「投資家やアナリストは、最近数カ月で危うさが増しているEV市場を避け得るアップルの決断を称賛。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、アヌラグ・ラナ、アンドリュー・ジラード両氏は「AIおよび乗用車の収益源についての長期的な可能性を踏まえれば」生成AIに経営資源をシフトすることは正しい判断だと指摘した。ただ、アップルが成長持続に苦慮しているこの時期のこうした決定は、将来的な収入源を失うことも意味する。同社は前四半期、なんとか販売不振から脱したものの、今期は再び低迷すると警告。発売されたばかりのビジョン・プロは今後数年間、成長に大きく貢献しそうもない」
世界的にEVへの夢がさめている。EVが世界的な過当競争に落ち込んでいる以上、「アップルカー」がアップルの特色を発揮できる技術的成果を得られなかったのだろう。他社並みのEV発売では、「アップルらしさ」に大きな傷がつくはずだ。
(4)「乗用車を販売しても、利益率は小さいだろう。だが、売上高という点でその可能性は大きい。「アップルカー」は長い間期待され、消費者をよりしっかりとアップルのエコシステム(生態系)につなぎ留めることができた。米国でEV革命を主導したテスラは、昨年1000億ドル近い売上高を上げた。さらに、グーグルを傘下に置くアルファベットや中国のテクノロジー各社は、依然として自動車に力を注いでいる」
アップルが、テスラ並みのEVを発売しても消費者の満足感は得られないであろう。二番煎じの「アップルカー」では、市場の評価を得ることはできないのだ。
(5)「『プロジェクト・タイタン』として知られてきたアップルの10年にわたる乗用車への取り組みは、それ自体がAIへの挑戦だった。アップルは、自動車を完全に自律走行させるのに十分強力でエネルギー効率の高いAIシステムを構築しようと考えていた。同社は自動車チームの約3分の1を他部門に移す予定だ。一方、自律走行ハードウエアや車の内装・外装、車両エレクトロニクスに携わる数百人の従業員は、社内で新たな仕事を探す必要がある。仕事が見つからなければ解雇される。そして、一部の従業員はすでに解雇を通告されている」
アップルカー開発自体が、AI化の流れに沿ってきた。だから、その技術開発蓄積は、そのままAI開発へつなげられる。


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