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中国最大の政治イベントである両会(全国人民代表大会と全国人民政治協商会議)が4日に開幕した。閉幕の象徴的な行事だった中国首相の内外記者会見が今年から廃止される。30年以上続いてきた慣例が破られるのだ。習近平国家主席の「一人指導体制」が強化された後、序列2位の李強首相の役割が減って、「秘書役」に成り下がったかという皮肉な見方さえ出ている。真相は、中国経済の悪化を改めて周知させる記者会見を取り止めるのだろう。苦し紛れの便法だ。 

『日本経済新聞 電子版』(3月6日付)は、「『中国首相は習氏の秘書役』、天安門事件前の密室政治再び」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の編集委員中沢克二氏である。 

中国・北京で5日に開幕した今年の全国人民代表大会(全人代)で、前年のおうむ返しのように「5%前後」の成長目標を強調した首相の李強(リー・チャン、64)。中国経済の不振が深刻化するなか、経済を担う責任者であるはずの李強が、全人代が閉幕する11日、恒例の総括記者会見を中止することが明らかになった。

 

(1)「それだけではない。2027年に開催される5年ごとの次期中国共産党大会まで、ずっと全人代に絡む首相記者会見が開かれない可能性が強まっている。全人代報道官からの紹介で判明した事実は、中国共産党の歴史を書き換えてしまうほどの衝撃を持つ。極限に達しようとしている共産党総書記=国家主席の習近平への権力集中。この政治構造の下、中国は過去30年の公開性向上に向けた努力をやめ、閉鎖的な密室政治への道に戻ろうとしている」 

全人代後の首相記者会見は、27年まで開かれないことになった。この間の中国経済が、ドロ沼状態であり、とても記者会見できる状態でないという判断だろう。 

(2)「中国は21世紀に入ってからの世界貿易機関(WTO)加盟も経て、30年にわたる目を見張る高度経済成長を続けた。裏で支えたのは、対外的に中国の内情を少しでも説明しようとする小さな努力の積み重ねだった。もちろん自由世界の公開性からみれば、中国の姿はまだまだ不十分だった。それでも「中国全盛30年」を引っ張る力だったのは確かだ。2024年の今年、公開性という点では、1980年代後半の中国より前に逆戻りすることになる」 

中国は、見栄を張る國である。悪い統計は発表しないことは日常茶飯事である。恥ずかしいところをみせたくない、というのが本音であろう。

 

(3)「もう一つ。首相記者会見が消える現在の中国共産党内に特徴的な政治構造を鋭くえぐり出す中国の識者の分析を紹介したい。「『単なる(習近平秘書室の)事務員』でしかない人物が、(内外メディアを前にした記者会見という)華々しい場に出てきて、大きな顔でしゃべるのは、ふさわしくないという判断だ。『習近平新時代』に入った現在、過去の慣例は全て破られる。そう考えてほしい」。「単なる事務員」という表現は、なかなか的を射ている。極権を持つ共産党トップの習以外の最高指導部メンバーは、ほぼ、習事務所の「単なる事務員」という扱いになり下がったという意味である」 

現在の中国では、「習一強」である。首相といえども習氏の「秘書」扱いというのだ。李首相は、政策決定権を失い執行機関に成り下がっている状況下では、中国を代表して語る資格がないというのだろう。 

(4)「企業の組織・人事に例えると、実質的に「執行役員クラス」でしかない李強が、全権を持つ社長である習の意向を代表するかのように「したり顔」で説明するのは不敬である、ということになる。「単なる事務員」というのが現状なら、この執行役員よりも軽い。これは従来、総理=首相の管轄だった経済運営、マクロ経済政策立案の範囲内であってもである。今は、中国内の全ての案件・政策について、習自らが決断、決裁しているというのが内部での共通認識である。しかも、これは単なる建前ではないのだ」 

中国を代表して語るのは、習近平氏一人しかいない。習氏が、記者会見でもしない限り、適任者はいないという意味であろう。ただ、28年以降は再び記者会見を開きそうである。24~27年の4年間は、中国経済最悪期という認識であろう。

 

(5)「ここには当然、中国が置かれている経済的な苦境も関係している。ここ数年、若者の失業率が公表できないほど上昇し、一部地方の財政は破綻寸前で、公務員に給与を支払うのにも四苦八苦している。李強による5日の政府活動報告では、資金不足を解消するため、超長期特別国債を今後数年、連続して発行するとしている。変化がないわけではない。しかし大部分は課題を羅列し、従来方針を踏襲しているだけだ。特に注目されてきた根幹の問題である住宅・不動産については、世界が評価できる有効な解決策、スキームは示されなかった。市場の一部では、失望感が広がりつつある」 

見栄っ張りの中国が、経済的に暗い話をするわけがない。中国は、「習皇帝」膝下にある。暗い話は御法度なのだ。 

(6)「この状況で李強が全人代後に総括の記者会見をすれば、外国メディアから中国経済の不振に関して質問が集中するのは間違いない。そして受け答えがあいまいで力に乏しいなら、中国市場への不安感がさらに増す。しかし、これは短期的な視点にすぎない。木を見て森を見ない議論の典型だろう」 

米国と覇権争いするという妄想を抱いている状態で、首相が暗い話をできるはずがない。明るい話しかできないのだろう。