テイカカズラ
   


中国軍は「偽の戦闘力」

元インド軍中将の分析

中国も経済分断で大損

習氏は人生賭けた勝負

 

戦前の日本は、海洋権益を求めて太平洋戦争へ突入した。中国も同様に、海洋権益への強い執着をみせている。これは、極めて危険な兆候である。他国の領土・領海への軍事進出にほかならないからだ。21世紀の先進国は一様に、領土拡張を否定している。だが、中国は「中華再興」を旗印に領土・領海の拡張を目指している。こうした戦略のすれ違いが、中国へ最大の外交上の難題となって圧力になっている。 

習氏が、「終身国家主席」を目指していることは言うまでもない。憲法を修正してまで、国家主席の任期を延長したことは、習氏が台湾統一と南シナ海や東シナ海の領海拡張を実現させようとするサインと読むべきだ。そうでなければ、軽々に憲法改正をするはずがない。 

中国が、台湾統一と南シナ海や東シナ海の領海拡張を実現させるには、軍事力へ依存するほかない。その中国人民解放軍は、中国共産党の軍隊であって、中国国家の軍隊でないという特異の存在である。政党が所有する軍隊であることは、世界でも希な存在である。中国人民解放軍兵士は、全員が共産党員であるはずがなく、軍務中4分の1を政治教育に費やさなければという脆弱性を抱えている。「国軍」であれば、このような無駄なエネルギーを使う必要はない。これこそ、「党軍」の抱える本質的欠陥の現れである。

 

中国軍は「偽の戦闘力」

香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』によると、3月11日閉幕した中国全人代で、中央軍事委員会副主席の一人である何衛東氏が、人民解放軍に対して「偽の戦闘力」を取り締まると表明した。不正により、中国軍の戦闘能力が目標とする水準に達していないことを問題視したとみられる。これは、中国軍にとって不名誉この上ない話だ。軍務の25%を政治教育に費やすのは、共産党への忠誠心を教え込むことにほかならない。忠誠心欠如の軍隊ほど、脆弱な存在はない。中国軍は、こうしたリスクにさらされている。 

中国全人代常務委員会は、昨年末の12月29日、中国軍の高官ら9人を常務委員代表職から解任した。うち5人は、戦略ミサイル部隊であるロケット軍の出身である。これには、ロケット軍の作戦指揮をとる責任者である司令員だった李玉超氏も含まれていた。ロケット軍は、台湾へ軍事圧力をかける威嚇や、軍事行動をとる際に、最も重要な役割を果す部隊である。そのロケット軍で起こった不祥事だ。それだけに、事態は深刻である。 

習近平氏が、進める徹底的な軍粛清の背景には、こうした深刻な規律弛緩が起こっていた。米情報機関の分析によれば、腐敗の広がりによって習指導部による軍近代化の取り組みを損ない、戦闘能力に疑問が生じさせているという。『ブルームバーグ』(1月6日付)は、次のように報じた。

 

人民解放軍ロケット軍内部および国防産業全体の腐敗は、非常に広範囲に及んでいる。習主席が向こう数年間に大規模な軍事行動を検討する可能性は、これによって著しく低下していると、米当局者は考えている。米国情報では、汚職の影響の例を幾つか挙げている。燃料ではなく水を詰めたミサイルや、効果的な発射を可能とするようには蓋が機能しない中国西部のミサイル倉庫などである。 

米国は、人民解放軍、特にロケット軍内部の腐敗が、軍事能力全体に対する信頼を失墜させたとみているのだ。習氏が、掲げる軍近代化の最優先課題の一部を後退させたと分析している。昨年後半の6カ月間にわたる腐敗捜査で、軍高官十数人が対象となった。軍への取り締まりとしては、現代中国において史上最大とみられている。

 

元インド軍中将の分析

米国の情報分析だけでは偏りがある。そこで、中国と国境線の紛争で対峙してきたインド軍幹部の中国軍に対する見方を紹介したい。 

元インド陸軍中将で中国軍の動向を長年研究してきたラビ・シャンカル氏が3月11日、時事通信のオンラインインタビューに応えた。その内容を要約すると次のようになる。

 

1)中国の武器は、管理が不十分で誤作動を起こしやすい。

2)中国軍の昇任は、習氏への忠誠心が基準であり実力に基づかない。

3)台湾上陸作戦は、地勢的に困難だ。資源の足りない中国に長期戦は不可能である。

4)中国は、台湾、南シナ海、日本、朝鮮半島、インドなどへの戦線拡大を恐れている。 

具体的な内容を紹介したい。

1)中国軍の兵器は粗悪だ。不正や怠慢のせいで管理がずさんであるからだ。制服組トップの張又侠・中央軍事委員会副主席は昨年8月、装備の管理を抜本的に改めるよう指示したほど。22年8月に台湾周辺で行われた大規模演習で発射したミサイルは誤作動があったもよう。パキスタンなどに輸出された中国製兵器も、うまく作動しないことがあった。 

2)中国軍の昇任基準は、能力ではなく習氏に対する忠誠心が左右する。こうした人事も影響し、中国軍は見掛けよりもはるかに弱い。新しい兵器を使いこなすには知識と経験が必要だが、有能な人材が足りないのだ。1979年以来、中国軍は本格的な実戦を経験しておらず、人事も能力重視でない。2020年6月、インドとの国境地帯で起きた中印両軍の衝突で、中国側の死者はインド側よりもはるかに多かった。(つづく)

 

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