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日本半導体の素材・部品・装置企業では、国内新工場建設および増設が続いている。韓国メディアが9日、日本の半導体関連ニュースを取り上げるほど注目されている。日本政府が、半導体の生産に必要な材料を国内で調達するサプライチェーンづくりを本格化させているからだ。 

『日本経済新聞』(4月9日付)は、「信越化学、半導体素材で56年ぶり国内新工場 供給網強化」と題する記事を掲載した。 

信越化学が、群馬県に半導体素材の新工場をつくることが8日、わかった。国内での製造拠点新設は56年ぶり。三井化学も山口県の拠点で増産体制を整える。半導体の製造装置や素材は、日本企業のシェアが高い製品が多い。戦略物資として各国が半導体産業の集積を進めており、日本でも素材まで含めたサプライチェーン(供給網)づくりが本格化する。

 

(1)「信越化学の新工場は2026年に完成し、フォトレジスト(感光材)や原版材料といった半導体ウエハーに回路を描く露光工程で使う材料を生産する。群馬県伊勢崎市に約15万平方メートルの事業用地を取得し、約830億円を投じる。国内での拠点新設は塩化ビニール樹脂などを手がける1970年の鹿島工場以来となる」 

TSMCの熊本進出でも、地元での半導体関連投資が盛り上がっている。いよいよ半導体素材の増産投資という、「本丸」へ投資が波及してきた。信越化学の56年ぶりの工場建設が、象徴的な出来事になった。 

(2)「フォトレジストは、露光材料の中でも日本企業が強みを持つ素材のひとつ。特に信越化学は世界シェアが約2割で、先端品に限ると4割以上とみられる。現在は、新潟県と台湾で生産しており、台湾は2021年、新潟県は22年に増設している。新拠点は半導体材料の戦略的な拠点として韓国や米国などへの輸出も担うほか、将来的には研究開発も手がける方針」 

信越化学は、先端半導体材料では世界シェア4割に達している。国策半導体企業ラピダスは、27年からの本格操業を予定している。需要がますます増える情勢だけに、信越化学は投資に迷いがなかったであろう。

 

(3)「三井化学は、半導体回路の原版を保護する薄い膜材料「ペリクル」を生産する山口県の工場を増設する。50億〜90億円を投じて、25〜26年に従来品より性能を高めた製品を量産する。ペリクルは露光装置で半導体ウエハーにレーザーを当てて回路を描く際、原版に傷やホコリが付着するのを防ぐ。露光装置を手がけるオランダのASMLは、より微細な回路を描ける次世代装置の投入を予定している。三井化学は、それに合わせて材料にカーボンナノチューブ(CNT)を採用し、従来品よりも強度と光の透過率を高めた次世代品を発売する」 

三井化学は、「ペリクル」増産で山口工場を増設する。オランダのASMLが、日本へ研究所を設置するので、連絡を密にして開発を進めるのであろう。 

(4)「日本は、経済安保の観点からも半導体の国内生産に取り組んでいる。台湾積体電路製造(TSMC)は、熊本県に日本初の生産拠点を設け、稼働を始めた。ラピダスは北海道に工場を新設し、27年にも生産を始める計画。半導体生産に必要な材料も国内で調達できるようにすることは、供給網の強化につながる。日本酸素ホールディングスは、製造時に使うネオンを26年めどに国産化し、富士フイルムは研磨剤「CMPスラリー」の国内生産を始めた」 

TSMCは、熊本工場新設で政府補助金を支給される。その条件として、素材の6割を日本国内で調達する義務が課されている。国内素材メーカには、自然と市場が拡大された形だ。

 

(5)「半導体材料は、マニュアル化できないノウハウや知見を持つ現場の職人的な技術蓄積がモノをいう分野でもあり、日本が技術優位性を保っている。英調査会社オムディアによると、日本勢の半導体材料主要6品目のシェアは約5割と、台湾の17%、韓国の13%を大きく上回る。ただ、高性能化する半導体の生産に最適な素材や装置を開発するには、顧客との継続的な擦り合わせによる改善が欠かせない。そのため一部の素材や装置で、生産や研究開発の拠点を海外に設ける動きが広がっていた」 

下線部は、日本企業の強みである。トヨタ自動車の全固体電池の開発でも、電解質の素材が出光興産による「マニュアル化できないノウハウ」という職人芸へ依存している。半導体も全固体電池も、素材の生産ではこういう微妙な「技」が生きている。 

(6)「半導体の供給網強化は、各国が取り組んでいる。韓国は2030年までに、装置や材料の外国企業の誘致を拡大する目標を掲げ、半導体産業の企業を誘致する大規模な工場団地の建設を進めている。台湾は20年に材料の自主生産を目標に掲げ、総額56億台湾ドル(約264億円)の予算を確保した」 

韓国や台湾は、国産化比率の引上げに努力している。半導体製造では、装置が長年使用している日本製素材特性にマッチしてしまうという不思議な現象が起こっているという。この結果、韓国や台湾が素材国産化を進めれば当面、製品歩留まり率に影響が出るという。半導体素材が「マニュアル化できないノウハウ」の結果であろう。