クリーン水素製造に道
鉄鋼・自動車等で活用
NTTは光半導体開発
2技術は国際標準化へ
社会が発展する動因は、技術開発の進歩発展にある。この発展は、直線的に進むものでない。必ず、「休止期」が訪れて階段状に発展する。これが、過去の人類が歩んで来た道である。18世紀後半から19世紀前半にかけた約100年間、英国で始まった産業革命によって、人類は長足の経済発展が実現した。石炭による蒸気機関がもたらした成果だ。エネルギー革命が、経済発展のカギの一つを握ることを証明している。
技術発展は、一国経済発展の基盤である。第二次世界大戦後の米ソの冷戦で、ソ連敗北の理由は技術発展が軍事に偏り、民間経済の発展を阻害したことにある。皮肉にも、ロシアの経済学者コンドラチェフは、資本主義経済に50年周期の循環があると指摘した。これ以降は、「コンドラチェフ循環」として世界的に知られるようになった。コンドラチェフは、資本主義経済に「死滅」がないとの仮定に立つので、ソ連首脳部から睨まれ「行方不明」という悲運に襲われた人物である。
資本主義経済の「50年循環説」は後に、技術革新がその主たる理由と解釈されている。画期的技術は、連続して起こるものではない。発明の必要性が認識される時代背景によって、新技術が登場するものだ。第二次世界大戦が終わって、すでに80年近い歳月が経つ。新しいエネルギー革命が、起っても不思議はない時代環境を迎えている。
今回のメルマガは、日本の技術開発力にスポットライトを当てた。技術は地味だが、その効果は世界を突き動かす巨大なものになる。日本には現在、そうした貴重な技術が二つも実用化に向けて動き出している。これを、読者とともに認識したい。
クリーン水素製造に道
上述の通り、エネルギー技術の革新が、人類を次なる経済発展段階へ押し上げてきた。第二次世界大戦後は、原子力発電がエネルギー革命の担い手として登場したが、主役は化石燃料の石油や石炭で大きなシェアを占めている。これが現在、大量の二酸化炭素を排出させて、環境破壊をもたらしている。
これを反面教師にし、無公害(二酸化炭素ゼロ)エネルギーとして水素が登場した。原料は無限に存在する水だ。この水素を製造するには、太陽光など自然エネルギーで水を分解し酸素を取り出すことがベストの選択である。このほか次善の策では、石炭や天然ガスから水素を製造する方法もあるが、二酸化炭素の排出を伴う難点がある。そこで、究極の無公害エネルギーの水素製造法として、高温ガス炉(原子力発電の一種)が脚光を浴びている。高温ガス炉は、発電するだけでなく水素も製造する。一人二役である。
高温ガス炉では、温度850度で水を分解して水素を製造する。日本は3月28日、これに成功した。OECD(経済協力開発機構)と共同で、次世代原子炉と期待される高温ガス炉(HTTR、茨城県大洗町)の安全確認試験を行った。商用化に向けた関門の一つをクリアした形である。日本原子力機構は、24年にも水素製造施設を高温ガス炉に接続する審査を原子力規制委員会へ申請する。順調に審査が進めば、28年には水素製造試験を始める計画とされる。日本が今、水素社会へ門を開いたのだ。
日本政府は、2040年の水素供給量を、現在の6倍になる年間約1200万トン目標にしている。研究炉である日本原子力機構のHTTRは、熱出力30メガワット(1メガワットは1000キロワット)である。250メガワットに高めれば、FCV(燃料電池車)で年間20万台分の脱炭素水素を製造できると試算する。政府は、出力が小型なので数基設置することを想定している。政府は、今後10年間で高温ガス炉などの建設に1兆円を充てる計画である。
経済産業省はすでに、高温ガス炉について、実証炉の開発で中核となる企業に、三菱重工業を選定した。実証炉の基本設計や将来的な製造、建設を担う。また、高温ガス炉の実証炉の建設では昨年9月、英国政府との協力の覚え書きを結んでいる。日英は、知見を共有して実用化を目指し、脱炭素社会の実現につなげる目的だ。
日本が、英国と協力の覚え書きを結んだ裏には、この分野でまだ明確な国際基準がないので、先行して基準を示して水素製造の国際標準を主導する思惑があるとみられる。今回の安全確認試験では、OECDが立ち会っている。日本には、英国と協力しOECDも加わって、水素の国際標準づくりをリードしたい執念を感じるのだ。これまでも、一貫して「水素の日本」という旗印を立ててきた。それへのこだわりである。
鉄鋼・自動車等で活用
日本の水素社会は今後、どのような構想で進むのか。
日本政府は2月、水素社会促進法案とCCS(CO2回収・貯留)事業法案を閣議決定し、現在開会中の国会へ提出した。両法案は、鉄鋼・化学などの産業、モビリティ、発電といった脱炭素の難易度が高い分野で、水素などの供給・利用の促進、CCSに関する事業環境を整備するものである。こうして、日本は水素社会へ向けて動き出している。その技術的裏付けは、今回の高温ガス炉による安全確認試験の成功である。日本にとっては、大きな一歩である。
水素社会を実現する上で、二酸化炭素排出量の多い産業が技術革新対象になる。鉄鋼・化学などの産業、モビリティ、発電が主要対象だ。(つづく)
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コメント
経済安全保障という視点で、半導体などの秘密事項を扱う担当者には、守秘義務が課されます。日本は、AUKUS(米英豪)へ技術協力する方向ですが、米国の極秘技術に接するので、この守秘義務は厳重です。違反の場合、懲役刑まで課されます。担当者は、身元調査を受けることになっています。
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