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日米両政府は10日(日本時間11日)の首脳会談で、半導体など重要物資の安定的なサプライチェーン(供給網)の整備で合意した。中国をにらみ、経済安全保障での連携を強めるのが狙いだ。米国がリードし、世界で急速に利用が拡大する人工知能(AI)分野でも協力を深める。 

安全保障や経済安保、宇宙など幅広い分野での連携も確認した。「日米同盟は前例のない高みに到達した」と位置づけている。日米共通の危機意識は、インド太平洋地域における中国の軍事的な威圧強化にある。日米は、この危機を中国との対話と抑止力強化によって解決しようとするもの。日米は、これまでにない戦略一体化に踏み切るのだ。 

『毎日新聞』(4月11日付)は、「日米、戦略一体化さらに 中国にらみ経済安保連携」と題する記事を掲載した。 

経済安保の連携強化もAI協力も、念頭にあるのは中国への対抗だ。日米の共同声明は「経済的威圧を抑止し、対処するための協力」を明記。輸出入規制をちらつかせ貿易相手国を威圧する中国への依存を減らし、日米を軸に相互に信頼できる「同志国」間での供給網整備を進めていく。

 

(1)「特に重視するのが、軍事、民生の両面で重要性を増す半導体。民生では自動車や電化製品に加え、急速に市場が拡大する生成AI開発にも不可欠だ。米国は先端半導体の設計や開発で世界トップクラスだが、製造の多くは海外に委託しており、有事に入手できなくなるリスクがある。バイデン政権は巨額の助成を通じ、「2030年までに世界の先端半導体の20%を国内で生産する」(レモンド商務長官)とのシナリオを掲げ国内回帰を進める。日本も4月に先端半導体の量産化を目指す国策ベンチャー「ラピダス」への支援を増額し、総額1兆円規模とするなど国内生産を強化。日米で量産体制を整えることで安定的な供給網の構築に向け動いている」 

日米で先端半導体の量産体制を整える。日本は、国策半導体企業ラピダスが米IBMから先端技術を導入して、27年以降に「2ナノ」(10億分の1メートル)の量産開始の予定だ。 

(2)「共同声明は、「半導体の研究開発、設計、人材育成などでの協力」も表明。日米は軍事転用の恐れがある先端半導体の対中輸出を規制している。連携強化を通じ、この分野で後れをとる中国を突き放したい考えだ。一方、電気自動車や太陽光発電などクリーンエネルギー産業に不可欠なレアアース(希土類)では中国が圧倒的なシェアを握る。日米は新興・途上国と連携し、これらの物資の供給体制も整えていく方針だ」 

クリーンエネルギー産業には、レアアース(希土類)が不可欠である。日米が協力してこれら物資の供給体制を整える。日本商社の出番である。

 

(3)「日米経済安保の強化は、バイデン政権が対中国を念頭に推進する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」とも密接に絡む。重要物資の調達が困難になった際に多国間で融通し合う協定が含まれているからだ。日米とインド、シンガポール、フィジーの5カ国は2月にこの協定を発効。日本政府関係者は、「日米がサプライチェーンを強化すれば、新興国にとってIPEFの魅力が高まる」と話す」 

IPEFは、重要物資の調達が困難になった際に多国間で融通し合う協定が含まれている。日米政府は、インド、シンガポール、フィジーへ潤滑な供給ができるように協力する。これは、日米がインドを取り込む目的である。 

(4)「AI分野の研究開発でも協力する。首脳会談に合わせ、マイクロソフト(MS)が29億ドル(約4400億円)を日本に投資し、AI開発などに使うデータセンターの能力増強を発表した。MSやアマゾンを含む日米企業連合は、日米の大学によるAI研究プロジェクトに総額1億1000万ドルを支援する。生成AIは虚偽情報の発信などへの安全対策が世界的な課題だ。AI規制を巡る議論は欧州で先行しているが、日米の連携で世界的なルール作りでも存在感の発揮を目指す」 

中国は現在、AIの開発競争で米国よりも2~3年の遅れになっている。この差は大きい。中国のAI半導体入手が、米国の輸出規制で著しく困難になっている結果だ。MSやアマゾンを含む日米企業連合は、日米の大学によるAI研究プロジェクトに総額1億1000万ドルを支援する。日米連携で、世界的なAIルール作りをリードする狙いだ。日本が、AI開発でトップへ進出できる環境になってきた。

 

(5)「首脳会談で日米が特に強調するのは、安保協力の一段の深化だ。共同声明は、「日米の指揮統制の枠組みを向上させる」と明記。自衛隊が陸海空の部隊運用を一元的に担う統合司令部を24年度末までに創設するのに合わせて、米軍の組織体系を見直す協議を加速させる。在日米軍は約5万4000人規模だが、指揮権はハワイにあるインド太平洋軍司令部が握る。在日米軍司令部は日本側との事務的な折衝、日米地位協定に関する調整を担うだけだ。組織体系の見直しでは、次のような案が出されえいる。米軍と自衛隊の運用面の調整を普段から緊密にする狙いがある。

1)米軍の調整組織を日本に新設する。

2)在日米軍司令官に一定の指揮権を委ねる

3)複数の軍種を集めた統合任務部隊を新設し、自衛隊のカウンターパートにする」 

日米は、軍事組織の一体的な運用が課題になってきた。有事の際、日米が齟齬なく出動するには指揮組織の統一が不可欠になる。日米の一体化が、ここまで進んできたという象徴的事例であろう。