テイカカズラ
   

米財務長官イエレン氏は、昨秋に次いで二度目の訪中によって、中国の過剰輸出問題の是正を申入れた。中国側は、近く米中で協議することで合意したが、見通しは暗いとする指摘が出ている。中国がこれを受入れれば、中国経済は文字通り「失速」するからだ。

 

中国国家統計局は11日、3月の生産者物価指数(PPI)を発表した。PPIは、前年比2.8%下落と、前月の2.7%から下落幅が拡大した。企業が、売上を維持しようと価格を引き下げ、コモディテイー(商品)価格も下落する中、PPIは1年半にわたり下落が続いている。前月比では0.1%の下落であった。こういう中で、企業は過剰輸出へ向わざるを得ない事態に陥っている。

 

『ロイター』(4月11日付)は、「中国の過剰生産能力、解消の見込みなし イエレン氏の警告無駄に」と題する記事を掲載した。

 

イエレン米財務長官のような海外当局者が何を言おうとも、中国の工場はまい進し続けるだろう。イエレン氏は8日、安価な輸出品で市場を氾濫させて欧米企業の足を引っ張らないよう、中国政府に警告を発した。とはいえ、中国の過剰な工業生産能力は今後も続く可能性が高い。

 

(1)「中国での4日間に及ぶ公式会合を終えたイエレン氏は、「これは以前にもあった話だ」と強調。2000年代初頭に中国の政策によって「中国産の安価な鉄鋼が世界市場に氾濫し、世界と米国の産業を壊滅させた」ことに言及した。現在、欧米その他の国々の政策当局者は、電気自動車(EV)、ソーラーパネル、リチウムイオン電池、その他の産業における中国の過剰投資について、内需を上回る水準に生産を押し上げているのではないかと懸念している」

 

過去の中国過剰輸出問題は、自由貿易論によって仕方なく受入れられてきた。だが現在は、自国のサプライチェーンを優先するという経済安全保障意識が高まっている。この動機をつくったのは、中国発の新型コロナによるパンデミックである。こういう環境変化の中で、中国が再び輸出攻勢をかけることは受入れられなくなっている。

 

(2)「中国は、過剰生産能力の抑制を約束する一方、欧米の不満は見当違いとしている。ただ、こうした懸念は一部の分野では正当化されそうだ。例えば、国際エネルギー機関(IEA)の21年の調査によると、中国のソーラーパネルメーカーは市場の80%超を支配するが、世界需要に占める(国内)比率は36%に過ぎない。同様に、業界データを引用したサウスチャイナ・モーニング・ポストの報道によると、CATL(寧徳時代新能源科技)を筆頭とする中国の有力バッテリーメーカーは昨年、747ギガワット時の電力を生産したが、これは実際に中国本土で購入された製品に搭載された387ギガワット時のほぼ倍だ」

 

中国は、太陽光発電パネルで国内需要の2倍以上の生産を行っている。バッテリーでも2倍以上の生産である。各国が、経済安全保障のために最低限のサプライチェーンを確保したくても、中国からの洪水のような輸出でなぎ倒されているのだ。中国は自由貿易論を建前にしているが、国内では保護貿易である。こういう「使い分け」は、他国を納得させないであろう。

 

(3)「過剰生産能力が、さらに広がる兆候もある。ロジウム・グループのアナリストによれば、稼働率は昨年初頭に16年以来の75%を下回った。稼働率低下は不動産関連セクターだけでなく、食品、繊維、化学、医薬品を含む産業全般で起きている。また、在庫水準も上昇している。これは、消費低迷と長引く不動産危機の中で経済成長を支えようとする中国の産業振興策によるところが大きい」

 

中国では、主要産業の平均稼働率が75%を下回っている。過剰設備の存在を示唆している。

 

(4)「4大国有銀行の製造業向け融資は、昨年は25%増の1兆2000億ドルに達し、ハイテクやクリーンエネルギーなど戦略セクターをターゲットにしている。こうした支援策は効果が上がっているようだ。調査グループのカーボン・ブリーフによると、クリーンエネルギーセクターは、23年に過去最高の11兆4000億元(1兆6000億ドル)を経済にもたらして国内総生産(GDP)拡大の40%に寄与し、中国経済にとって最大の成長原動力となった。中国は、5%の成長目標を達成すべく今年もこの成功を再現しようとするだろう。中国の産業エンジンはフル回転していると言えそうだ」

 

中国政府は、過剰債務に悩む不動産開発産業を放置して、製造業への融資を集中させている。4大国有銀行の製造業向け融資は、昨年は25%増と急増した。こうした集中的な融資によって、クリーンエネルギーセクター(EV・電池・太陽光パネル)は、GDP成長率の40%も寄与している。中国が、過剰生産能力の再編に取組むとはとうてい期待できない、としている。