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日本政府は、日米が一体化するという時代環境の変化を生かして、かつて失敗した国産旅客機開発に再び取組むことになった。航空機は、部品点数が約300万点で、自動車の100倍とされている。裾野の広い有望産業である。しかも、脱炭素化時代の要請を生かせば、日本製旅客機開発は決して夢ではない。新素材や水素エネルギーなど、日本の新たな技術が生かせるのだ。

 

三菱重工業が昨年2月、撤退した「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」は、多くの予約を取りながらも、米国での形式証明が取れず23年2月、ついに断念に追込まれた。今回は、形式証明取得を目標に開発計画を練り直せば済むこと。だが、「羮に懲りて膾を吹く」類いの議論もあるのだ。

 

『毎日新聞』(4月9日付)は、「再び国策旅客機構想、失敗検証せず進む危うさ」と題する社説を掲載した。

 

また国民に負担を押しつけるだけの大風呂敷に終わらないか。失敗の教訓を十分に学ばないまま、官製プロジェクトを推し進めようとする姿勢に疑念が拭えない。

 

(1)「経済産業省が国産旅客機開発の新戦略を発表した。今後10年間に官民で5兆円を投じ、脱炭素に対応した次世代機の開発・量産を目指す。日本企業はこれまで、欧米航空機メーカーに部品を供給する下請けに甘んじてきた。経産省は「完成機も造れる基幹産業に育てたい」と説明する。だが、同じ発想で進められた三菱重工業のジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」開発は1年余り前に中止となった」

 

毎日新聞は、半導体国策企業「ラピダス」でも疑念を表明している。日本の半導体が、先行組から大きく引離されており、技術的に追いつくのは無理という主張だ。だが、米国のIBMから最先端技術の供与を受けることや、日本が1980年代に世界半導体の5割強のシェアを持っていたこと。現在は、半導体製造装置や素材で大きなシェアを占めているという事実を完全に無視した議論をしているのだ。

 

国産旅客機は、最終的に断念したのは1年前である。今ならば、失敗の原因も突き止められる。それは、米国の旅客機証明を得られなかった一点を調べ上げれば修正可能であろう。一度失敗したから、二度目を挑戦しないという主張は生産的でないのだ。毎日新聞は、「ラピダス」反対論と今度の国産旅客機反対論も軌を一にしている。

 

(2)「双発プロペラ機YS11以来40年ぶりの「日の丸旅客機」として2008年に始まったが、商用飛行に必須の「型式証明」を取得できなかった。1500億円とされた事業費は約1兆円に膨らみ、国が出資した500億円も失われた。経産省は、型式証明の知見不足や市場環境の変化を失敗の理由に挙げる。その上で「民間1社では困難。国が前面に出て支援する枠組みが必要だ」と強調する」

 

ホンダジェットは、米国の「型式証明」を取得できたが、三菱重工は取得できなかった。この分かれ道は、ホンダが米国で組み立てており、米国企業の支援を受けたことと無縁でない。三菱は、戦前の「零戦」を製作した誇りが単独の製造となり米国と疎遠であったことは事実だ。米国の形式証明では、一度に修正箇所を指摘せずその都度、指摘するという非生産的やり方であった。こういう反省点に立てば、ホンダジェットのやり方を参考にするのもいいだろう。

 

(3)「今回は航空関連企業に加え、水素エンジンを開発する自動車メーカーにも参加を呼びかけ、日本の技術力を結集するという。脱炭素化を目的に発行する国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を財源に、国も思い切った支援を行う方針だ。しかし、旧MRJの失敗を徹底検証したとは思えない。型式証明取得のノウハウは官民ともなお乏しい。次世代エンジン開発では欧米勢が大きく先行する。経産省は車向けの技術を生かせば追いつけると期待するが、識者は「転用は容易ではない」と疑問視する

 

下線部は、毎日新聞が「ラピダス」反対論を主張するときも同じ論理を使っている。この「識者」は、今回の議論には関係していない人物であろう。三菱重工関係者は、前回の失敗を乗り越える可能性を次のように指摘している。

 

「三菱重工幹部は、『(三菱)1社で背負うのはあまりにリスクが大きすぎた』と、MSJ開発を振り返る。3900時間を超える試験飛行では大きな問題は生じず、『技術的な自負はある』と成果を口にする」(『日本経済新聞』(3月27日付)

 

三菱重工一社でなく、複数の企業が参加する形式になれば、成功への道は開かれるであろう。

 

(4)「航空機は部品点数が約300万点と車の100倍で、裾野の広い有望産業だ。ただ、主役である民間企業は三菱重工の巨額損失を目の当たりにして腰が引けている。過去には、税金を投じて国が仕掛けた半導体産業の再生策が民間の十分な協力を得られず、頓挫した例もある。民間企業の新事業への挑戦を後押しするため、税制などの環境を整備する。それこそが国に求められる役割だ」

 

経済産業省は、三菱重工の失敗を教訓にするとしている。過去に失敗したから、次も失敗すると決めつけては、ビジネスチャンスを逃すのだ。