韓国の総選挙は、与党「国民の力」が大敗北を喫した。108議席にとどまり、現有議席の114議席を下回る事態となった。ただ、定数300議席の3分の1にあたる100議席を維持した。野党議席は、大統領の弾劾訴追が可能になる3分の2を下回ったので、朴槿恵政権弾劾の二の舞を回避できる。野党「共に民主党」は、総選挙中に大統領弾劾を叫んでいたのだ。
『日本経済新聞』(4月12日付)は、「尹氏の対日政策難路、韓国与党大敗 政権脆弱に 元徴用工問題見通せず」と題する記事を掲載した。
韓国総選挙(一院制の国会議員選)で与党「国民の力」が108議席にとどまり大敗した。現有議席の114議席を大幅に下回る事態はかろうじて回避した。当面の日韓関係への影響は限定的とみられるが、韓国政府が関係改善に取り組む上で火種は残っている。
(1)「与党は投票日直前の世論調査や当日の出口調査で、現有議席114議席を大幅に下回ると報じられていた。定数300議席の3分の1にあたる100議席を下回るとの予測もあった。野党勢力が大統領の弾劾訴追も可能となる3分の2を確保する可能性も取り沙汰された。最大野党「共に民主党」と曺国(チョ・グク)元法相が立ち上げた革新系新党「祖国革新党」の議席数はあわせても3分の2に届かなかった。与党は大敗したものの、野党の極端な巨大化は免れた」
韓国の選挙は、投票日1ヶ月間の風が支配するとされている。今回も、3月初めの与党有利説が一挙にひっくり返った。感情論を煽った方が勝利を収めるからだ。多くの被告が堂々と立候補して当選する姿は、日本にはみられない情景である。
(2)「韓国半導体産業協会の安基鉉(アン・ギヒョン)専務は「(輸出管理問題の時に)関係の毀損が両国にとって良くないことを経験した。与野党ともにそれを傷つけるようなことはしないと思う」と話す。韓国最高裁は18年以降、日本製鉄など複数の日本企業に対し元徴用工への賠償を命じる判決を確定させた。尹政権は1965年の日韓請求権協定で解決済みとする日本側の立場に理解を示し、韓国政府傘下の財団が判決金を支払う解決策を提案した。勝訴した原告に支払いを進めている」
日本にとって気がかりな点は、旧徴用工問題が最後まで解決されるかである。韓国政府は解決策の受け入れを拒んだ原告に関しては、判決金相当額を裁判所に預ける「供託」の手続きを23年7月から始めたが、供託の有効性を認めない地裁の判断が全国各地で相次いでいる。韓国司法は、民意の影響を受けやすいことで知られる。今後の判決の行方に疑問付がつく。
(3)「解決策は韓国内で「一方的な譲歩だ」など一部に反発もあったが、大統領の強力な権力を用いて推し進めてきた。尹氏の大胆な取り組みに官庁や企業も協力した。2022年に発足したばかりの政権に求心力が働きやすい状況だったことも尹氏を後押しした。今回、与党が過半数を取れなかったことで、尹政権が元徴用工問題の解決策を最後までなし遂げられるか見通しにくくなった」
韓国社会では、もともと元徴用工問題の解決策に対し「日本の呼応措置が不十分だ」との批判が根強い。解決策を主導した政府・与党が総選挙に敗れたので、尹大統領のレームダック(死に体)化が懸念される。いずれ裁判所で差し押さえられた日本企業資産の現金化の手続きが再開され、最終的に日本企業に実害が生じるリスクを排除できないのだ。
(4)「韓国政府の財団は、足元で原告への支払いの原資が不足している。鉄鋼大手ポスコが資金を拠出しただけで、寄付の動きが他の企業に広がっていない。今後、企業側の政権への協力姿勢が低下すれば寄付集めがいっそう難航しかねない。財団からの資金の受け取りを拒否する原告への弁済が滞っている問題もある。今回の選挙で与党が勝利すれば、国会で法整備をして新たな財団をつくり、完全解決をめざす道が開けるはずだった。与党が敗北し、この道は絶たれた。野党は総選挙での圧勝を背景に、尹政権に対日関係の修正を迫りそうだ。共に民主党は総選挙の公約で、元徴用工や慰安婦の問題で「日本企業や政府の直接補償」を求めた。日本企業が補償しない形での解決を進めてきた尹政権を批判する」
韓国政府は、旧徴用工問題の完全解決のために、国会で法律を成立させ新たな財団をつくるはずであった。この計画は、与党大敗北で潰えた。
(5)「尹政権が日韓関係の改善を機に進めた日米韓の安保協力についても、野党は「北朝鮮との対立をあおっている」と非難する。尹政権が残る任期でこれまで通りの外交・安保政策を進めたとしても、次の大統領が尹氏の方針を維持する保証はない。中国の台頭や北朝鮮のミサイル開発など東アジアの安全保障環境を考えると、韓国の内政リスクが改めて浮き彫りになった」
韓国政治の難しさは、政策の善悪を議論するよりも感情論が支配していることだ。その時の気分次第で動いているだけに、韓国の指針は揺らいでいる。尹大統領は、こういう自国民の感情特性を把握していれば、今少し柔軟に対応できたであろう。尹氏の正論一本槍が、感情社会に敗れた印象だ。
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