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台湾のTSMCは、今や世界一の業績を誇る半導体企業である。筑波市に半導体研究所を設けており、日本の半導体製造装置や素材企業が参加している。最先端半導体には、日本企業の協力が不可欠であるからだ。その日本が、国策半導体企業ラピダスを設立してTSMCが手がけようとする「2ナノ」(10億分の1メートル)の最先端半導体へ進出する。これに、半ばショックを受けているのがTSMCだという話が持ち上がった。 

『東洋経済オンライン』(4月11日付)は、「TSMCが日本の補助金よりも欲した“2つの取引先”」と題する記事を掲載した。 

今、日本は半導体特需で沸きに沸いている。この熱狂の中心にいるのが半導体受託製造(ファウンドリー)の世界最大手、TSMCだ。この巨大企業を創業期から取材してきた台湾のハイテクジャーナリスト林宏文氏が、『TSMC世界を動かすヒミツ』を発刊した。以下は林氏とのインタビューである。

 

(1)「TSMCが、日本で工場を建設する意義や目的は、TSMCのシーシー・ウェイCEOが過去に明確に述べている。すなわち「重要な顧客企業のため」なのだと。日本政府に請われたから、補助金が得られたからではないのだと、そうはっきり語っています。重要な顧客の1つは、トヨタ自動車です。ウェイCEOは熊本工場の開所式にトヨタの豊田章男会長と面談した際、「(熊本工場は)TSMCが日本で半導体製造に乗り出す第一歩。ぜひトヨタの支援をいただきたい」「(自動車向け半導体が)今はTSMCにおいて小さな割合であっても、将来は伸びる。トヨタと一緒に成長したい」と語っている。もう1つの重要な顧客は、アップルだ。iPhoneはカメラ用の撮像素子(CMOSセンサー)を大量に消費するが、それを供給しているのはソニーグループだ」 

TSMCは、トヨタとソニーの顧客を得たくて日本へ進出したと指摘している。ならば、熊本第一工場だけで済んだはずだ。それが、第二工場進出を既に発表している。第四工場まで九州へ建設するのは、日本の半導体製造の適地性を認識した結果であろう。トヨタとソニーは、「入り口」に過ぎない。 

(2)「TSMCが、米国をより重視してきたのは当然だ。その姿勢に、変化が生じているのではないかと感じている。TSMCの経営陣は当初、米国のアリゾナ新工場のプロジェクトを「千載一遇の成長機会」と感じたはず。中国との半導体戦争という環境の中で、米国政府はTSMCの新工場建設に巨額の公的支援を約束したからだ。今となっては、米国政府はTSMCの有力ライバルであるインテルに、より大規模な支援を行うことが明らかになっている。TSMCの米国新工場の建設はいろいろの要因で遅れている」 

TSMCは当初、米国を高く評価していたが、しだいに熱が冷めている。米国政府が、TSMCの有力ライバルであるインテル支援に傾いているからだ。この反動で、TSMCは日本へ軸足を移していることは間違いない。日本の「物づくり文化」を頻りと絶賛しているからだ。

 

(3)「日本が半導体産業を振興すること自体に成功のチャンスがあると思う。半導体製造装置において、日本は米国、オランダと並ぶ最重要国です。多くの半導体材料でも、日本企業がトップシェアを掌握している。これは日本企業が長期的なR&D(研究開発)を重視してきた成果だ。息の長いR&D重視姿勢は、台湾よりも日本が顕著だ。製造装置や材料の強みがさらに増す政策であれば、日本にとって大きな価値があると思う」 

日本の半導体製造の潜在的な能力は、台湾や韓国をはるかに凌いでいる。製造装置・素材・生産とワンセット揃っているのは、世界で日本だけだ。 

(4)「ラピダスについては、日本の皆さんにシビアに伝えたいことがある。日本では先端半導体を作るプロセス技術が途絶えているため、ラピダスはIBMからの技術移転を選んだ。実はIBMからの技術移転は、台湾を代表する半導体メーカーも選んだことがある。しかし失敗に終わった。企業成長を決定的に遅らせるほどの大きなつまずきだ。その企業はUMC(聯華電子)である。UMCはTSMC同様、台湾政府の支援で生まれた。UMCの創業は1980年とTSMCより7年早い。ところがUMCは2000年ごろを境に、TSMCに技術や業績の面で大きく引き離された。UMCが、IBMからの技術移転を選んだ影響が大きいと考えられる」 

IBMは、「2ナノ」で試験生産に成功している。ただの「特許」ではない。ましてや、日本は「一を聞いて十を知る」潜在的な半導体製造能力を持っている。台湾のUMCと同列に扱われては困るのだ。日本は、大学を始め研究機関参加の「オールジャパン」で取組んでいる。

 

(5)「IBMは、今の最先端技術を使って半導体を量産したこともないし、ましてや受託製造のサービス業であったことはもちろんありません。量産ラインにおいて、どうすれば歩留まりを低減でき、半導体の品質とコストを下げられるのか。顧客からの突然の追加オーダーや、逆に思ってもみないキャンセルといった不測の事態に耐えるためには、工場の柔軟性や学習曲線をどう上げればよいのか? ラピダスはどうやって学ぶのだろうか」 

日本は、天才的な物づくりノウハウを持っている。日本を見くびっては困る。半導体で言えば、台湾も韓国も日本の後発国である。 

(6)「トヨタは、ハイブリッドカーや水素カーを世界に普及させる夢を抱いている。そのために先端半導体が不可欠だ。自動車産業の強みをどう伸ばすかが重要で、そこで必要な半導体を日本が設計さえすれば、TSMCがパートナーとなって製造することができるのです」 

TSMCは、トヨタやソニーの半導体を全て受注したいのだ。それは、ビジネス動機である。日本の産業政策としては、TSMCに半導体の製造付加価値を全て吸い上げられていたのでは、国家経済が発展しないのだ。日本は、半導体植民地にならない。