a0005_000022_m
   


ロシアのプーチン大統領は12日、国防相を務めたショイグ氏を交代させ、第1副首相のベロウソフ氏を後任に充てる人事を議会へ提案した。経済閣僚が長い同氏を起用して、国防省と軍の組織改革を進める。ロシアは、ウクライナ侵略の長期化で戦費が膨張している。国防相交代は、財政規律の引き締めを図るのが目的だ。ベロウソフ氏は、国防相として軍事予算や軍備の管理を担う。ペスコフ大統領報道官は同日、国防相交代の理由を「軍の予算を国全体の経済運営に合致させる必要がある」と説明した。

 

『ロイター』(5月13日付)は、「ロシア大統領、ショイグ国防相を交代 後任にベロウソフ氏」と題する記事を掲載した。

 

ロシアのプーチン大統領は12日、ショイグ国防相を交代させ、副首相だったアンドレイ・ベロウソフ氏を後任に起用する人事を提案した。経済政策を専門とするベロウソフ氏を国防相に充てることで、ウクライナでの勝利に向けて防衛費の有効活用を図り、経済戦争に備える狙いがあるとみられる。

 

(1)「今回の人事刷新は22年2月のウクライナ侵攻以降にプーチン氏が軍司令部に対し実施した最も重要な変更となる。人事案は議会の承認が確実視される。大統領府のペスコフ報道官は今回の交代について、軍と法執行当局が国内総生産(GDP)の7.4%を占めていた1980年代半ばのソ連のような状況に近づいているため理にかなっているとし、こうした支出を国家経済全体と整合的にすることが重要だと説明。プーチン大統領が国防相にエコノミスト起用を望むのはこのためだとし、「革新に前向きな者こそが戦場で勝利する」と述べた」

 

ロシアの2024年の国家予算では、国防費が前年比6割増の10兆ルーブル(約17兆円)超に伸びる見通しだ。歳出全体の3割も占める規模になる。3月にはプーチン政権が戦費確保のために個人所得税の増税を検討しているとも報じられたほどだ。下線部で、国防関係費が、GDPの7.4%も占めた旧ソ連時代(1980年半ば)に接近している事実を認めている。こういう事態が、旧ソ連経済を崩壊させたことから、プーチン氏は「戦費節約策」に出ざるをえなかったのであろう。

 

ロシア財務省は、2022〜23年の戦争関連の財政出動が、GDPの約10%相当と推計していた。フィンランド銀行新興経済研究所が公表した調査によると、同期間に民需生産が横ばいだったのに対し、戦争関連の工業生産は35%増加した。

 

フィンランド銀の調査チームは、直近のロシア経済予測リポートで次のように指摘している。「政府が、戦争を他の何よりも優先すると、経済政策の基本原則を無視することになる。ここ20年来、ロシア政府は堅実な経済政策を選択してきたが、(戦争によって)ロシアの堅実な政策が放棄されることは、経済専門家のみならず多くの人を驚かせた」。『フィナンシャルタイムズ(FT)』(2月3日付)が報じた。

 

前記の報道から推察されるのは、ロシアが2年3ヶ月以上続けてきたウクライナ侵攻によって、経済がガタガタになっていることだ。これまで、ロシア経済は予想外に持ちこたえているとみられてきた。だが、ロシアは「国防関係費が、GDPの7.4%も占めた旧ソ連時代」という暗黒時代を引き合いに出すほどになっている。経済的にみれば、ロシアの継戦能力に限界がみえてきたことを示唆している。前記FTは、次のようにも指摘している。

 

エコノミストに加え、ロシア政府の要職にあるテクノクラートの一部も、大々的な軍事支出によって、ロシア経済に新たなひび割れが生じ始めていると警戒感を示す。国家歳入の約3分の1を占める石油・ガス輸出への依存を減らすどころか、プーチン氏の戦時体制は新たな依存症を生んだ。武器の生産である。

 

ウィーン国際比較経済研究所(WIIW)のエコノミストチームは、1月のリポートで「戦争が長引くほど、ロシア経済の軍事支出依存度が高まる」と指摘した。「このため、紛争が終結した後、経済が停滞したり、明らかな危機に陥ったりする恐れが生じている」と警告した。ロシア経済は、ウクライナ侵攻で大きなダメージを受けている。

 

(2)「ベロウソフ氏は、プーチン氏に非常に近いことで知られる。ロシアのドローン(無人機)プログラムで重要な役割を果たしてきた。一方、退任するショイグ氏はウクライナでの戦況を巡り軍事ブロガーらから強く批判され、昨年には民間軍事会社ワグネルの創設者だったプリゴジン氏が反乱を主導した経緯がある」

 

プーチン氏は、新たな政権発足時を捉えて人事一新を断行する。開戦中の国防相交代は、難しい事情をはらんでいるであろう。軍部内の反発などだ。ただ、新政権発足で全閣僚の辞任届を預かっているので、形式上は反発を招かないように配慮していることが窺える。