中国は、国内景気の停滞からさらに輸出依存を高めるべく人民切下げ論が話題になっている。業者は、不安から金融機関への問合せが殺到しているという。景気停滞感が、民間を不安にさせているのだ。米国が14日、電気自動車(EV)、半導体、医療用製品など中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げると発表した。これが、さらに切下げ論に拍車をかけるであろう。米国が関税を上げれば、人民元切下げが不可避という前提だ。
『ロイター』(5月14日付)は、「人民元、切り下げは自滅行為 景気下支えにつながらず」と題するコラムを掲載した。
中国が、近く人民元を切り下げる可能性があるかとの質問が、金融機関へ殺到している。低迷する国内経済を下支えするため、輸出競争力を高めるべく人民元を切り下げるとの見方だ。切り下げは、現時点で自滅行為になるだけだ。
(1)「今年の輸出は好調だ。最近、中国のメーカーを視察した欧州の大手金融機関のエコノミストによると、為替レートに対する不満は皆無だった。元を人為的に切り下げれば、韓国、インドネシア、ベトナムといった近隣諸国も追随する可能性があり、効果は限られる。また、切り下げには資金流出の拡大を招くというデメリットもある」
中国は、なりふり構わずにダンピング輸出を強行している。この結果、3月の落込みを除けば1月から4月まで増加を記録している。ただ、ダンピング輸出だけに世界中へ被害を及ぼしている。後記の通り、米国が大幅な関税引上げを発表した。
(2)「切り下げは、資金繰りが厳しい不動産デベロッパーなど国内企業にとって、ドル建て債務の返済で高くつく。国際決済銀行(BIS)のデータによると、国際的な銀行の中国企業に対する国境を越えた債権は昨年末時点で総額5260億ドルに達している。中国は、過去に唐突な通貨切り下げリスクについて身をもって学んだ。2015年の人民元切り下げは深刻な混乱を招き、中国人民銀行(中央銀行)は一段の元安を防ぐため、外貨準備1兆ドルを取り崩し、新たな資本規制を導入した」
人民元切下げは、債務者にとっては切下げ分を余計に返済しなければならなくなる。中国企業の国境を越えた債務は、昨年末時点で総額5260億ドルになっている。人民元切下げは、この債務額が切下げ分だけ膨らむ。
(3)「人民元は、人民銀行が毎日設定する基準値の上下2%が許容変動幅となっているが、足元では米中金利差を背景に変動幅の下限付近に張り付いている。習近平国家主席は1月、「金融強国」を目指す上で優先事項のトップに強い通貨を挙げたが、これは驚くにはあたらない。人民元を大量に保有する数少ない外国人投資家に再び痛手を負わせれば、人民元の国際化という長期的な目標の達成が危うくなるだけだ」
習氏は、「金融強国」を旗印にしている。金融面で脆弱性を抱えていることから、あえてこういう目標を掲げたもの。中国自ら、この目標を下ろす訳にはいくまい。
(4)「こうした(人民元)安定目標は、11月の米大統領選でトランプ前大統領が勝利した場合、試練に見舞われる可能性がある。米中貿易戦争を引き起こしたトランプ氏は、当選すれば中国製品に60%の関税をかけると脅している。そうなれば、人為的な切り下げを行わなくても人民元が急落する可能性がある。1回限りの大幅切り下げを認めれば、人民銀行が望む水準を維持できなくなり、防衛ラインの設定を迫られる恐れがある。中国にとっては時間をかけた緩やかな元安の方が望ましい」
11月の米大統領選でトランプ氏が復帰すれば、中国にとって事態が複雑になる。嵐の襲来を前に、中国自らが人民元切り下げて、米国をさらに刺激する必要はないという戦術論であろう。
『ロイター』(5月14日付)は、「バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導体など」と題する記事を掲載した。
バイデン米大統領は14日、電気自動車(EV)、半導体、医療用製品など中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げると発表した。
(5)「11月の大統領選を控え、米中対立のリスクを冒して有権者の支持拡大を図る目的だ。1974年通商法301条に基づき、今年、EVの関税を25%から100%に、リチウムイオンEV電池・その他電池部品の関税を7.5%から25%に、ソーラーパネル用太陽電池の関税を25%から50%に引き上げる。「一部の」重要鉱物についても関税をゼロから25%に引き上げる」
バイデン氏は、1974年通商法301条に基づいて、思い切った関税引き上げ策に出てきた。EVを100%へ引上げる。トランプ氏を意識した結果であろう。
(6)「港湾クレーンの関税は、ゼロから25%に、注射器・注射針の関税はゼロから50%に、医療施設で使用する一部の個人用保護具(PPE)の関税もゼロから25%に引き上げる。2025~26年には、半導体の関税を2倍の50%に引き上げるほか、黒鉛、永久磁石、ゴム製の医療用・手術用手袋の関税も引き上げる。バイデン氏が以前発表した一部の鉄鋼・アルミニウム製品の関税引き上げも年内に発効する」
半導体関税は、2倍の50%に引上げる。注射器・注射針の関税は、ゼロから50%になるという。
(7)「ホワイトハウスは声明で、中国の不公正な慣行により、世界の市場に安価な製品が氾濫しており、米国の「経済安全保障」に対する「容認できないリスク」になっていると表明。今回の措置は中国からの輸入品180億ドル相当が対象になると述べた。トランプ前政権が導入した関税は維持する。国勢調査局によると、米国は昨年、中国から4270億ドルの製品を輸入。対中輸出は1480億ドルだった」
昨年、米国は中国から4270億ドルを輸入した。今回の関税引き上げに該当する輸入分は、180億ドルで4.2%に当る。事前に、ダンピングによる輸入急増を防ぐ狙いであろう。過去のペースで推移すれば、中国に実損は少ないであろう。
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