a0070_000030_m
   

北海道が世界先端地域へ

太陽光コスト原発へ接近

水素へ価格差調整を実施

EUが水素技術で相乗り

 

政府は6月4日、「金融・資産運用特区」として東京・大阪・福岡・札幌の4都市を指定した。規制緩和によって、個人の金融資産を投資に向かわせ、「成長と分配の好循環」の実現を図るという主旨だ。この中で、札幌市が、北海道とともに指定されたのは、異色という感じである。狙いは、日本経済の将来を左右するグリーンエネルギー産業振興である。北海道・札幌が、選ばれたのはそれだけ大きな意味を持っている。

 

北海道は、太陽光発電と風力発電で日本最大の適地である。陸上風力では日本全体の約半分の適地があるのだ。すでに、米国のインベナジーは、今後10年間で、北海道における再生可能エネルギー(再エネ)関連開発に2000億円以上の投資計画を明らかにしている。北海道が、内外資本から再エネ産業の有望地域として脚光を浴びているのだ。

 

北海道は、苫小牧や室蘭を中心として工業地帯が形成されている。道内でつくられる再エネは今年2月、これら地域での工業用水素発電に使われる企業間協定が発表された。出光興産・ENEOS・北海道電力3社による事業計画で、国産グリーン水素サプライチェーンを立ち上げる。

 

具体的には、2030年頃までに苫小牧西部エリアにおいて、国内最大となる年間1万トン以上のグリーン水素を製造できる水電解プラントを建設する。製造したグリーン水素は、出光興産および地域の工場などにパイプラインで供給する計画だ。こうした、事業計画の発表は、日本グリーン水素に「水素時代」が到来しつつあることを告げている。

 

北海道が世界先端地域へ

グリーン水素は、二酸化炭素を排出しないのでクリーンエネルギーである。水素を製造するには、こうした再エネによって水電解プラントを稼働させる方法と、もう一つ小型原子力の「高温ガス炉」を使う方法がある。高温ガス炉による水素製造実証試験は、日本が今年2月世界で初めて成功した。30年以降の実用化に向けて、三菱重工業が高温ガス炉の製造を行うことに決まった。

 

日本は、このように「地産地消型」の再エネを使う水素製造と、高温ガス炉による水素製造の二つが、ワンセットになってグリーンエネルギー時代を牽引する。グリーンエネルギーが普及するためには、先ず水素需要をつくり出すことが大前提になる。

 

そこで、大きな意味を持つのは、今回の北海道GX(グリーントランスフォーメーション)特区によって、普及への地ならしが必要性であることだ。北海道は、明治維新の開拓に次ぐ「第二の開拓」と言われるほど期待が高まっている。札幌市は、GX投資を最大40兆円呼び込む戦略を展開する。7月から、関連企業の申請を受け付ける準備も始めた。担当する局を新たに設けるなど全力投球の構えだ。

 

北海道の工業は、苫小牧や室蘭の北海道西部地域に偏っている。製造業の北海道経済に占めるウエイトは、全国水準に比べ2分の1と低く、主力は食品工業である。高度成長時代とは一変した。こうした事情から、再エネ消費は限定されている。そこで、有り余る電力を貯蔵する蓄電池設備が不可欠になる。ここに先ず、ビジネスチャンスが生まれるのだ。

 

蓄電池設備では、道内でエネルギー企業や総合商社が太陽光や風力による発電量の変動を吸収する、系統用蓄電池事業に相次いで参入している。蓄電池設備が完備していれば、大量の再エネは、余剰が出ても蓄電設備で溜められるので安定的な操業が可能だ。再エネは、天候や夜間によって発電が中断する。平均的な稼働率は、20%とされている。これだけ変動の大きい電源を使いこなすには、蓄電池設備が不可欠である。

 

中国や韓国では、再エネの電力が余剰を来して捨てている事例も出ている。「もったいない」話であり、蓄電池設備が整っていれば、こうした電力ロスを防げるのだ。日本では、絶対に引き起してはならないケースである。

 

系統用蓄電池とは、送電線と蓄電池を直接つないで充放電する蓄電池を指す。北海道では再エネの豊富さを背景に、系統用蓄電池を送電線に接続したいと検討するケースが急増している北海道電力の送配電会社、北海道電力ネットワーク(札幌市)への申し込みは、検討中も含めて2024年3月末時点で827万キロワットと全国の約2割を占め、23年5月末時点と比べて3倍弱に増えた。『日本経済新聞』(6月7日付)が報じた。蓄電池設備は、再エネのインフラなのだ。

 

北海道では、約560万キロワット分の再エネが送電網に接続済みである。北海道の最大需要電力は、約500万キロワットだ。供給が、すでに需要を上回っている。接続の申し込み済みや検討中の計画は、1600万キロワットを超すとされる。すべて実現すれば、合計2200万キロワットに達する。道内需要の4倍を超える再エネが生まれるのだ。こうして、蓄電池設備のほかに電力調整市場が不可欠になっている。(つづく)

 

この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

https://www.mag2.com/m/0001684526