中国は、人口の約半分が「肥満症」による成人病予備軍という異常事態を迎えている。急激な経済成長で栄養を過剰摂取したことが肥満症を招いた。公式データに基づく米投資銀行ジェフリーズの推計によると、中国には肥満の成人が約2億人、太り過ぎの成人がさらに4億人いる。中国は人口が減少しているにもかかわらず、向こう10年余りで肥満の成人人口がさらに1億人増えるとジェフリーズは予測している。実に7億人が肥満症に悩むという国民病になった。
こうなると、食事療法では間に合わない事態だ。デンマーク製薬大手ノボノルディスクによる糖尿病治療薬「オゼンピック」が、中国では減量薬に使われている。通販で簡単に手に入ることも理由で「奇跡の薬」とされている。1カ月分の投与量のオゼンピックが約139ドルで販売されているのだ。「オゼンピック」の特許が、26年に切れることから「後発薬」として11社が製造準備を始める混戦状態になった。
『ロイター』(6月8日付)は、「肥満症治療薬、有望市場の中国で競争激化の予兆」と題する記事を掲載した。
デンマーク製薬大手ノボノルディスクには、有望視している中国市場で今後激しい競争にさらされる局面が待ち受けている。同社が、手がける糖尿病治療薬「オゼンピック」と肥満症治療薬「ウゴービ」を巡り、中国で少なくとも15種類のジェネリック(後発薬)の臨床試験が行われているというデータがあるからだ。
(1)「肥満症にも処方されるオゼンピックは2021年に中国で承認された。昨年の広域中華圏での売上高は倍増して48億デンマーククローネ(6億9800万ドル)に上った。ウゴービも今年内の承認が見込まれる。ただ、ウゴービとオゼンピックの有効成分であるセマグルチドの中国における特許は2026年に失効する。またノボノルディスクは中国でこのセマグルチドの特許権を巡る係争が続いており、裁判所が同社に不利な判定を下せば失効時期がさらに早まりかねない」
ノボノルディスクの特許は、26年に失効する。これを見越して、後発薬が国内製造へ準備を始めている。
(2)「こうした状況を受け、中国の製薬業界は活気づいている。ロイターが臨床試験のデータベースを調べたところ、中国企業が開発中のセマグルチドを使った少なくとも11種類の薬が試験の最終段階に入っていることが分かった。情報サービス会社クラリベートの医療調査・データアナリスト、カラン・バーマ氏は、「オゼンピックは中国本土でかつてないほど成功したことが知れ渡っている上に、特許失効が迫っているので、中国の製薬会社はできるだけ早くこの分野を収益面で生かすことを目指している」と述べた。
中国人口の半分(約7億人)が、潜在的市場であることから、肥満薬は「超大型薬品」になることは間違いない。
(3)「中国勢で先頭を走るのは杭州九源基因工程で、既にオゼンピックと「同等の臨床効果と安全性」を持つ治療薬を開発し、4月に販売承認を申請した。効果を示すデータは公表されておらず、ロイターが情報の提供を要請しても回答がなかった。同社は今年1月、来年後半には販売承認を得られるとの見通しを示しつつ、ノボノルディスクの特許が失効する26年より前には、裁判所が特許無効を最終認定しない限り、商用化できないと説明していた」
すでに後発薬で販売申請した企業も現れている。
(4)「中国の公衆衛生研究グループの調査では、国内の太りすぎと肥満症の人口は2030年にはそれぞれ5億4000万人、1億5000万人と2000年比で2.8倍と7.5倍に増加すると見込まれる。そうした中で、中国勢の後発薬がノボノルディスクと同じ安全性や効果があると証明されれば、競争が激化して値下げが起きる、とアナリストは話す。ゴールドマン・サックスのアナリストチームは昨年8月のリポートで、中国のセマグルチド配合薬市場では、後発薬が主導する形で価格が約25%下落してもおかしくないとの見方を示した」
後発薬が発売されれば、価格は4分の3へ下がるとの予測もある。
(5)「ノボノルディスクも競争激化に向かうことは認めている。経営幹部の1人は今年3月、中国市場について26年と27年には臨床試験の進展によって「若干プレーヤーが多くなるかもしれない」と語った。ただこの幹部は、一部の企業が商用化という面で意味のある量を提供できない可能性にも言及した」
現在は、11社15種の後発薬が申請されている。特許切れが明らかになれば、さらに新規参入もありうるという。中国成人が減量できるかどうかは、肥満薬の効果にかかっている。
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