中国では、庶民にとって住宅投資が唯一の資産形成であった。バブルで値上がりし続けてきたからだ。だが、住宅値下がりは今年で4年目を迎えている。ローン支払中の住宅価格が、ローン残高を下回る例が続出している。いわゆる「ネガティブエクイティー」と言われる状態へ落込んでいる。不動産が、「負動産」に逆回転してしまったのだ。
『ブルームバーグ』(6月10日付)は、「中国住宅不況4年目ネガティブエクイティーが家計と銀行を脅かす」と題する記事を掲載した。
中国の不動産不況が4年目に入り、住宅価格が下落の一途をたどる中、住宅ローンの残高が持ち家の現在価値を上回るケースが増えており、家計と銀行の双方を脅かしている。 所得の伸びが鈍化し、失業が広がる今、評価額が下がりいわゆる「ネガティブエクイティー」状態にある自宅のローン返済に追われ続けることに意味があるのかと疑問を抱き始めている持ち家派もいる。
(1)「ルーシー・リウさん(32)は上海の自宅を購入するため借り入れたローン(残高)300万元(約6500万円)の返済を4回滞らせた。すると、貸し手の銀行が裁判を起こすと通告してきた。住宅価格は上がる一方だと信じ、リウさんが3年前に420万元で住宅を購入した時と状況は一変。持ち家の評価額はローン残高を下回っている。高い給与を得ていた仕事を失った彼女は新しい職を見つけたが、給料は8割減った」
住宅価格が値下がりしても、所得を従来通り得ていれば、ローン支払に問題は起こらない。ただ、中国経済全体が不動産バブル崩壊によって停滞している現在、賃下げ・解雇という激震に見舞われ、稼得能力は大幅ダウンに見舞われている。こういう状況では、住宅ローンを支払えないのだ。
(2)「ブルームバーグがまとめたデータによると、家計負債は2023年末時点で1人当たりの可処分所得の145%と過去最高水準を記録。英国の126%、米国の97%を大幅に上回る。中国の銀行はすでに、不良債権の増加や利ざや縮小によるバランスシートの悪化に苦しんでいる。交通銀行は3月、デベロッパーに貸し出した融資の不動産不良債権比率が昨年末に5%近くに跳ね上がったと発表した。1年前は2.8%だった。中国工商銀行は、住宅ローンの不良債権が9.6%増の278億元に達した。中国農業銀行は、住宅ローンの不良債権が昨年4.7%増加したと報告した」
中国の家計負債は、2023年末時点で1人当たりの可処分所得の145%と過去最高に達している。こうなると、月々の債務返済が滞るのはやむを得ないことが理解できる。原因は、住宅ローンであろう。
(3)「悲観的なデータは増えるばかりだ。長江証券の伍戈チーフエコノミストによれば、住宅ローンの延滞率は23年末時点で4年ぶりの高水準となった。ローンの返済を怠った住宅所有者は、銀行が起こした訴訟に引きずり込まれ、自宅差し押さえの憂き目に遭う。持ち家は最終的に20~30%値引きされ、売却される。中国にはまだ全国的な自己破産法がないため、ローン滞納者はほとんどの場合、滞納の責任を問われ、信用記録に傷がつき、将来の借り入れ資格に長期的な影響を及ぼす可能性がある」
住宅ローンが支払えず、自宅を銀行に差し押さえられると競売にかけられる。ローン滞納者は、その後に種々の社会的な不利益を被る。高速鉄道乗車ができないとか、高速道路を利用できないなど、日本では考えられない「差別」が待っている。
(4)「住宅ローンの頭金要件を緩和することで不動産市場に活気を吹き込もうとしている中国政府だが、そうした救済策の効果が疑問視されている。「頭金比率の引き下げは綱渡りだ」とオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の大中華圏担当チーフエコノミスト、楊宇霆氏は指摘。「需要を喚起できなければ、ネガティブエクイティーに陥るリスクが高まる。頭金15%の住宅ローンを利用する新規購入者は、価格下落に対するバッファーが弱くなる」ためだ」
政府の新規住宅ローン条件の緩和は、新たな住宅犠牲者を生むようなものだ。政府が、住宅救済で本腰を入れず、様子見を決め込んでいるからだ。住宅市場は、回復する条件がない以上、新たな「ネガティブエクイティー」(負動産)を増やすだけである。
(5)「ブルームバーグが公式データに基づき算出したところによると、中国の新築住宅価格は4月現在、21年の高値から5.7%下げ、中古住宅価格は11.4%下落。ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループは最近のリポートで、不動産価格が安定する前に主要都市で少なくともあと30%下落するとの予想を示した」
ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループは、主要都市の住宅価格があと30%の下落を予想している。底なしの「住宅不況」である。
コメント
うまい
座布団10枚差し上げます
有り難うございます。謹んでお受けいたします。
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