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テスラは5月23日、最新の投資家向けリポートを発表した。過去2年は、必ず掲載していた数字が削除された。「2030年までに年間2000万台の車両を納入する」という目標だ。一方では、2018年に承認されたマスク氏の報酬パッケージの株主総会で再提案されている。最新の株価で460億ドル(約7兆1800億円)に相当する。23年の米CEO報酬ランキングで首位となったブロードコムのホック・タン氏が稼いだ金額(1億6200万ドル)の約300倍にもあたる。テスラ経営は、これからどこへ向うのか。 

『日本経済新聞 電子版』(6月10日付)は、「異変テスラ、消えた2000万台構想 転機の『マスク流』」と題する記事を掲載した。 

世界大手のトヨタですら23年に初めて世界販売が1000万台を超えたばかりで、2000万台はどのメーカーもなし遂げていない。この目標はマスク氏が20年に掲げ、テスラの成長の旗印となってきた。目標の取り下げは、右肩上がりの経営に異変が起きていることが背景だ。 

(1)「13月期、テスラの世界販売台数は前年同期比9%減の38万6810台と四半期ベースで約4年ぶりに減少した。決算も4年ぶりの減収減益となった。同期間の売上高営業利益率は5.%と前年同期(11.%)から約6ポイント低下した。20年10〜12月期(5.%)以来、約3年ぶりの低水準となった。2年前には19.%と業界でも突出していたが、2年で「業界並み」に下がり、成長ペースが鈍化した」 

テスラは、高収益企業から「業界並み」のEV会社になった。値下げ競争の火蓋を切って、自ら巻き込まれた結果だ。販売戦略を間違えた。

 

(2)「商品戦略の誤算が成長鈍化を招いた。米国、中国など主要市場で小型多目的スポーツ車(SUV)「モデルY」や小型セダン「モデル3」などを投入し販売台数は増加を続けてきたが、モデル3の改良モデルは電池調達などが難航し、生産が遅れた。主力市場でEV販売が鈍化したことも響いた。23年11月にピックアップトラック「サイバートラック」を出荷するまでの過去4年間、新型車の発売はなかった。ステンレス鋼を使って独自の外観に仕上げた同車種は、加工が難しく、新型電池の量産にも苦戦しており、販売台数は数千台にとどまっている」 

EV品種を絞ってコストダウンを実現したが、販売量を求めすぎて値下げを挑み「自爆」した感じも強い。自信過剰がもたらした失敗だ。 

(3)「右肩上がりに成長してきたテスラにとって、EV事業が軌道に乗ってからは、減速は初めての経験だ。成長局面ではマスク氏の高い求心力で、皆が同じ目標に向かって追随してきた。拡大を前提する「モーレツ組織」は、減速とともに歯車が狂い始めた。「成長に向けてコスト削減を進め、生産性を高める」。13月期の減収減益が見え始めた4月中旬、マスク氏は世界で10%以上の人員を削減すると従業員に伝えた。テスラの従業員は23年12月末時点で約14万人。4月以降、最大規模の中国・上海工場や米国、ドイツなど世界の工場で一時解雇(レイオフ)や減産を始めた。マスク氏を支えてきた幹部もテスラから離れている。最高財務責任者(CFO)、電池開発、充電部門などで経営の中核を担った幹部が短期間で離職した」 

テスラは、創業以来の危機だ。従業員を解雇するほか、経営の中枢を担った人たちが袂を分かって退職した。これだけでも「テスラ危機」を証明している。

 

(4)「成長が踊り場を迎える中でも、テスラはマスク氏に対する560億ドル(約8兆8000億円)規模の巨額報酬案について、13日の株主総会で承認を求める方針だ。この報酬案を巡り、一部の株主とテスラの間で応酬が続いている。報酬案は18年にテスラが導入した成果連動型のプランだ。18年に約73%の株主が承認したが、一部の株主が反対して訴え、24年にデラウェア州の裁判所が無効とした。報酬案では、マスク氏はテスラの市場価値が500億ドル上昇するにつれて、段階的に一定量のストックオプション(株式購入権)を受け取ることができる。テスラの時価総額が18年を起点とする10年間で、6500億ドル(約100兆円)に達することが前提となっていた。つまり、テスラが成長し続けることが前提にある。足元の時価総額は5600億ドル程度で21年後半のピークの5割以下に低下し、株主の一部は持続的な成長には懐疑的だ」 

テスラは、マスク氏に対する560億ドル(約8兆8000億円)規模の巨額報酬案について、13日の株主総会で承認を求める。金額が大きすぎて、真面目に議論できないと言う理由で反対論が増えている。仮に、否決されたらどうするか。こちらも、興味深いのだ。

 

(5)「米議決権行使助言会社のグラスルイスは「報酬の規模が過大」と批判した。マスク氏が「X」や「スペースX」、「xAI」などテスラ以外の複数の企業でトップを務め、テスラの経営に集中できていないとも批判した。米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)も報酬案に反対を推奨した。こうした批判に対し、テスラのロビン・デンホルム会長らは強気だ。「イーロン・マスクは典型的な経営者ではない。報酬はマスクをやる気にさせるために不可欠なものだ」。5日には総会を前に、株主に対して異例の声明で呼びかけた」 

この巨額報酬案は、株主総会でどのように扱われるか興味深い。常識をこえているからだ。マスク氏も資金調達できるのは、テスラだけになったのだ。