中国の習近平国家主席は、台湾は中国の不可分の領土と宣言している。これを邪魔する勢力は一切許さないと強硬姿勢だ。この「威嚇」に恐れをなしたか、元外務省の高官が「中国を刺激するな」と言った婉曲発言をしている。中国とは、経済関係で密接な関係を築くことが究極的は「日本の安全保障」になると力説する。韓国の文政権が採用した対中外交政策の踏襲でもある。中国の「戦狼外交」が、日本で見事に成果を上げた感じだ。
『毎日新聞』(6月12日付け)は、「『台湾有事』と軽々に言うなかれ、日本は壊滅的打撃を受ける」と題する記事を掲載した。筆者は、元外務省高官の田中均氏である。小泉政権当時、拉致被害者の一部帰国実現など、日朝外交を影で推進したことで有名である。
台湾周辺で有事的事態になれば日本に甚大な被害を与えることは想像に難くないが、「日本有事」と言いきることは日米安全保障条約5条事態で日本が攻撃にさらされ、日米が共同行動をとるという事態を指すわけで、戦争に入ることを意味する。これはどうしても避けなければいけない事態であり、国民の生命財産を守る立場にある政治家が軽々しく口にできる言葉ではない。
(1)「習氏が、いつ台湾統一に踏み切るのかは内外の環境次第だろう。今日、中国経済は大きな曲がり角にあると見られ、不動産不況、若年層の高い失業率、消費需要の落ち込みなどデフレに向かう要素も強く、果たして今後どれだけ5%程度の高い成長目標値を続けられるのだろうか。成長率が大幅に減速する事態となれば習政権の安定にも疑問符が付くのだろう。しかし、経済成長を順調に維持できれば、政権はむしろ米国をはじめ国際社会を敵に回して経済制裁の対象となるような行動には踏み出さないと見るのが自然だ。中国は、ロシアとの本格的な連携が対米戦略上も役に立つと考えているにしても、経済制裁を受けそうな対露軍事支援には向かわないだろう」
田中氏は、中国経済が順調な成長過程であれば、台湾侵攻へ踏み切らないとみている。これは、一般論と逆である。経済に自信があれば、台湾侵攻のマイナスを乗り越えられるとの前提に立ち、侵攻へ踏み切るであろう。現在、中国が米国と話合い姿勢をみせているのは、深刻な不況克服策を求めている証拠だ。田中氏の発想の原点とは、全く異なっている。中国「性善説」に立っている。
(2)「バイデン米政権が続く限り、バイデン大統領が何度も明言する通り、中国が台湾の軍事統一に向けて動き出せば軍事介入するだろう。その場合、双方が核戦争の危険を冒して全面的な戦争となるとは考えられない。台湾海峡地域の限定的な軍事衝突だとしても、米軍は沖縄やフィリピンの基地から戦闘作戦行動に出るのだろうし、日本が安保条約交換公文に従った事前協議でノーということは難しい。限定的戦争であったとしても、日本は好むと好まざるとにかかわらず戦争に巻き込まれていくことになる」
中国の台湾侵攻は、中ロ話合いの中で決断されるみるべきだ。外交戦略は、平時においては「性善説」に立つ。一方で、万一の事態に備えた「性悪説」に立つことも不可欠だ。日米同盟が機能するには、日本側の「最少犠牲」も計算に入っている。それによって、国土喪失という最悪事態の回避も可能になる。自衛隊は、なんの目的で存在するのか。全ての結論は、ここに帰着するだろう。
(3)「いずれにせよ日本にとって被害甚大なシナリオだ。日本の死傷者の数は膨大となるだろう。中台との貿易が途絶し、さらには台湾周辺の海上輸送路が封鎖され、海上輸送コストが高騰する結果、日本経済が被る損失は壊滅的だ。もちろん、備えがあるに越したことはなく、沖縄離島住民の沖縄本島への避難計画や、海上保安庁の大型輸送船の建造などは危機管理として正当化されるだろう。防衛能力の拡大や米軍との包括的抑止力を強化することも重要だ。しかし、より重要なのは中国を台湾の軍事的統一に走らせないような外交アプローチだ」
田中氏は、日本の被害を甚大と見積もっているが、中国はさらに大きな被害を受ける。当然、NATO(北大西洋条約機構)も介入するだろう。中国は、ドル決済機構から排除されて第二の「ロシア化」する。中国へは、こういう一連の「マイナス」を認識させるべきだ。
(4)「日本は安保面では米国との統合的抑止を強化しつつ、経済面ではむしろ中国に積極的に関与する政策をとるべきではないか。中国にとって日本との関係を損なうことが自国の成長を大きく阻害するという実態を作ることが日本の重要な抑止力となる。このような観点から、日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)などが参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)の活性化や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への中国加入に道を開くべきではないか。台湾有事は日本有事と叫び、中国と敵対するような雰囲気を高め、中国を阻害しようとすることは結果的には日本の国益に資するものではない。冷静に考えていくべきだ」
中国が、TPPに加盟することなどあり得ない。中国経済は、国有化企業によって動いており、TPP加盟の条件を欠いている。こうした条件を緩和させてまで中国を加盟させたい理由はどこにあるだろうか。中国は、3000年の歴史を持つ国だ。どんな手段を使っても目的(世界覇権達成)を捨てない国である。元外交官の田中氏は、それを十分に知っているはずだ。
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