米政府は6月12日、ロシアに対する制裁を大幅に拡大すると発表した。ロシアとの取引がある外国金融機関に制裁対象を広げることを正式に決めた。イエレン米財務長官は措置の狙いについて、「外国金融機関への『二次的制裁』のリスクを高め、ロシアの軍需産業が米国製のソフトなどを利用することを制限する」と述べた。
中国外務省は13日、米政府が発表したロシアに対する制裁の拡大に「断固反対」を表明した。林剣副報道局長が記者会見で、「中ロ間の正常な経済・貿易を妨げたり、壊したりすべきではない」と主張した。中国の一部金融機関とロシアの銀行や企業との間では、決済や送金といった取引があるとされる。林氏は、対ロ制裁拡大について「中国をおとしめ、封じ込める道具として使うべきではない」と要求した。「米国による世界規模での一方的な制裁は他国の主権と安全を著しく損ね、サプライチェーン(供給網)の安定を壊している」と強調した。
こうした中国外務省の声明は、これまでロシアへ戦略物資を輸出していないと言い繕ってきたことを否定し、公然と認めたようなものである。米国政府の制裁拡大があっても、これに該当する事実がなければ、わざわざ反対声明を出すまでもないからだ。中国は、とんだところで「馬脚」を表した。
『日本経済新聞 電子版』(6月13日付)は、「米国、対ロシア制裁を強化 外国金融機関に対象拡大」と題する記事を掲載した。
米政府は、ロシアとの取引がある外国金融機関に制裁対象を広げることを正式に決めた。半導体などの供給にかかわるロシア国内外の企業・個人も公表し、圧力を強める。
(1)「イエレン米財務長官は措置の狙いについて「外国金融機関への『二次的制裁』のリスクを高め、ロシアの軍需産業が米国製のソフトなどを利用することを制限する」と述べた。外国金融機関が制裁対象のロシアの金融機関や、軍需産業に関わる個人、軍需物資をロシアに販売・供給する企業と取引した場合などが対象になる。従来は米国内の企業、個人が制裁対象の中心だった」
金融機関にとって、ドル決済機構から排除されることは「死」を意味する。決済ができなくなるからだ。米国が、こうした「二次制裁」へ踏み切ったことは伝家の宝刀を抜くものだ。
(2)「米財務省は国務省とも連携し、軍需物資の迂回輸出に関わるロシア国内外の300以上の団体・個人を新たに特定して公表した。ロシア向けに半導体や電子部品、工作機械などを供給している中国企業も複数含まれている。バイデン米大統領は2023年12月に、ロシアの軍需関連の取引に関わった外国の金融機関に制裁を科す権限を財務省に与えていた。制裁を受けた外国金融機関は、米国内の金融網から遮断されたり、米国内の送金用口座の維持を禁じられたりする可能性がある」
米国は、「二次制裁」の準備を重ねてきた。制裁権限は昨年12月に、財務省へ与えられていた。
(3)「国際決済銀行(BIS)によると、ロシア関連の投融資は23年末時点でオーストリアが136億ドル(約2兆1000億円)と突出している。モーニングスターDBRSによると、オーストリアの大手銀行ライファイゼン・バンク・インターナショナルはリスク資産のうちロシア関連が15%を占める。イタリア大手ウニクレディトは5%ある。米国の特定のIT関連サービスやソフトウエアをロシアで利用できなくする措置も取る。対象となった場合、9月12日以降はロシア向けのクラウドサービスの提供やソフトウエアの更新などのサポートが禁じられる」
ロシア関連の投融資は、オーストリアが136億ドルと突出している。かつてのロシア・
オーストリアの関係が、未だに生きていることを再認識させられる。1873年締結のドイツ・オーストリア・ロシアの三国による対フランス同盟である。現在のオーストリアは、永世中立国となったが、「昔の誼(よしみ)」で繋がっていたのであろう。ただ、オーストリアの貿易相手国として、ロシアは輸出が16位、輸入も13位に止まっている。
(4)「ロシア国内の一般市民が、インターネットにアクセスすることを制限する措置までは踏み込まない。13日からイタリアで始まる主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、対ロ制裁の強化が主要テーマの一つになる」
米国は、G7首脳会談が始まる前に、二次制裁を発表して不退転の決意を示した。G7の意思を一本にまとめる伏線であろう。
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