EU(欧州連合)委員会は6月12日、中国の比亜迪(BYD)や吉利汽車、上海汽車(SAICモーター)などのEV(電気自動車)メーカーに対し、現行関税率10%へ追加関税を加えると正式に通知。これにより、7月から関税率は最高48%に達する可能性が出てきた。ただ、EUへのEV輸出の6割は欧米メーカーである。米国テスラは、早くも追加関税率の引き下げを申請すると同時に、値上げを発表した。
中国乗用車協会(CPCA)が発表した5月の乗用車輸出台数は、4月に過去最高を記録したが、5月は前月比9%減の37万8000台となった。EUは、7月から大幅な関税率引上げに踏み切るので、どれだけの影響が出るか関心が集まっている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月13日付)は、「中国の輸出マシン、欧米抜きで動き続けられるか」と題する記事を掲載した。
中国の輸出は依然として好調だ。それが西側諸国とのあつれきを生み、中国製の電気自動車(EV)に対する関税の新たな波を招いている。それと同時に世界貿易を塗り替える要因にもなっている。中国政府にとっての問題は、発展途上国に軸足を移すことで、輸出マシンを稼働させ続けられるかという点だ。
(1)「中国メーカーが、貿易制限の可能性に先手を打とうとしたことが、最近の力強い伸びの一因かもしれない。例えば、中国の対米輸出は5月に前年同月比3.6%増と、ここ数年の傾向に反して増加した。だが全体的に見れば、中国は欧米への輸出を減らし、東南アジアや中南米への輸出を増やしている。今年1~5月の輸出は、東南アジア向けが前年同期比12%増、米国向けが17%減だった。2023年だけでも中国の対米輸出は14%減少している」
中国は、駆け込み輸出をしている気配もある。4月の自動車輸出が過去最高を記録し、5月には一転して減少しているからだ。
(2)「一つには、中国企業が貿易ルートをベトナムやメキシコ経由に迂回(うかい)させていることがあるかもしれない。だが、中国がバリューチェーンの段階を引き上げる一方で、これらの国々も低価格製品の生産体制を整えてきた。中国は新たな市場も見いだしている。対ロシア輸出は過去2年間に70%急増した。西側の経済制裁でロシアが諸外国との貿易の多くを断たれたことが背景にある。また中国は大量のガソリン車をロシアに出荷している。中国国内のEVへの急速な移行を受け、中国は今やこの分野で過剰な生産能力を抱えている」
中国は、対ロ輸出を急増させてきたが、米国の金融「二次制裁」発動によって、対ロ輸出も急ブレーキがかかるであろう。輸出はしだいに、「八方ふさがり」状態へ向いつつある。
(3)「より重要なのは、中国が以前とは異なる種類の製品を輸出していることだ。モルガン・スタンレーによると、EVや電池、太陽光パネル、非最先端半導体といった新分野は昨年の輸出総額の8.5%を占め、5年前の4.5%から拡大した。この種の輸出は欧州や米国で反発を招いている。欧米もグリーン移行に必要な技術や人工知能(AI)の台頭に対応する技術の構築に力を入れているからだ」
中国は、「三種の神器」(EV・電池・太陽光パネル)として、輸出プレッシャーをかけてきた。それが、どうやら限界点に向っている。後が、なくなったのだ。
(4)「一方、比較的低所得の国々では手頃な価格の中国製品が歓迎されるかもしれない。ブラジル自動車販売店連盟(FENABRAVE)によると、同国では2023年にEVとハイブリッド車(HV)の販売台数がほぼ2倍に増えた。このうち純粋なEVの販売台数で中国のEV大手、比亜迪(BYD)は半分以上のシェアを占め、HVの販売台数でも中国メーカーが上位に入った」
EV・電池・太陽光パネルは、先進国向け製品である。発展途上国には、簡単に手の出ない製品である。これまでとは状況が異なる。
(5)「東南アジアは今や、中国の輸出先として米国やEUよりも大きな割合を占める。東南アジアと中南米を合わせると、今年これまでの中国輸出額の4分の1近くに上る。米国とEUの合計シェア(29%)よりはまだ小さいが、両地域合わせてかなりの規模の市場があり、今後の成長が期待できる。ただ、途上国の多くは中国におおむね友好的だとはいえ、国内の政治的圧力と無縁ではない。場合によっては中国からの輸入品に貿易障壁を設けるかもしれない」
途上国は、自国の産業を保護育成しなければならない立場にある。そこへ、中国の割安商品が「ドーン」と輸入されたなら根こそぎやられてしまう危険性が高い。
(6)「中南米諸国の多くは国内産業を保護するため、鉄鋼関税を引き上げている。ブラジルは最近、国内生産の促進を目的にEV輸入関税を再び課すことを決めた。2026年までに18%から35%に段階的に引き上げる。緊張を和らげる動きとして、中国企業は雇用創出につながる現地工場を立ち上げている。BYDの場合、ブラジルにEV工場を建設中だ。中国の途上国への輸出シフトは今のところうまくいっている。だが、保護主義が次第に強まる世界では、その戦術にも限界が訪れるだろう」
ブラジルが、EV輸入関税をかけることになった。BYDは、ブラジルでEV工場を建設して輸入摩擦を回避する方向を目指している。中国企業は、世界的な保護主義の動きに直面する。
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