ロシアのプーチン大統領が5月16日、習中国国家主席と会談した。国際会議に合わせた会談を含めれば、この両氏の顔合わせは40回以上にのぼるという。そして、今回の会談が世界へもたらす影響は、かつてなく大きく深刻だという論評まで飛び出している。
現秩序を守ろうとする西側陣営(米国と米同盟国)と、それを崩そうとする中ロ枢軸の抜き差しならぬ対立が始まったとしている。だが、こうした悲観論を180度否定する分析も出ている。真相は全く逆であり、「恋い焦がれるロシア」と「深情けを迷惑がる中国」という構図である。
『時事通信オンライン』(6月13日付)は、「中国とロシアの冷めた連帯、ウクライナ侵攻前と様変わり」と題する記事を掲載した。
ロシアのプーチン大統領が中国を公式訪問し、中ロの緊密な関係を誇示した。しかし、共同声明などを見ると、ウクライナ侵攻直前に同大統領が訪中した時の熱気は既になく、中国側は対米共闘のため、冷めた連帯をやむを得ず維持しているという雰囲気だ。
(1)「プーチン大統領は5月16日から17日にかけて訪中し、習近平国家主席との共同声明を発表した。ウクライナ戦争を巡って中ロが米国と対立する中、国交75周年を祝う文書だったが、2022年2月の北京冬季五輪を機にプーチン大統領が来訪した際の共同声明と比べると、次のような違いがある」
中ロ会談を分析するには、両国の声明を比較することでヒントが得られる。
(2)「両国の声明を分析すると、次のような特色が浮かび上がる。
1)「両国の友好に限りはなく、協力に立ち入り禁止区域はない」という文言がない。昨年3月に習主席が訪ロした時に発表した共同声明で消え、今回も復活しなかった。
2)中ロ関係について「同盟せず」と明記された。昨年の共同声明に盛り込まれ、今回もそれを引き継いだ。
3)中ロそれぞれの「民主主義」を正当化する主張がない。22年の共同声明は、欧米流の民主主義押し付けに対する反論を詳述。昨年の共同声明も少し触れたが、今回は消えた。
4)大群衆の民主化運動で政権を倒す「カラー革命」反対の記述がない。22年の共同声明は1回、昨年の共同声明は2回言及していた」
2)の両国が「同盟せず」は、中国側の主張であろう。中国国内では、歴史的にロシアへの警戒観が極めて強い。中国国内には、ウクライナ侵攻したロシアと「同盟」を結ぶなど頭から否定する見解が多数だ。
(3)「5)昨年の共同声明と同様、北大西洋条約機構(NATO)拡大への反対がない。ロシア側は今回の共同声明で、台湾独立の動きに反対するだけでなく、中国による「国家統一実現」の措置にまで支持を表明したのに、欧州におけるNATOの動きに対しては「重大な関心」が示されただけだった」
中国は、NATOを敵に回したくないのだろう。中国の台湾侵攻という事態になれば、NATO介入ありうる。習氏にとっては、自己の立場を窮地に追込むからだ。
(4)「22年の共同声明は政策だけでなく、イデオロギー面でも中ロの連帯を強調したが、そうした一心同体的な表現はすっかり薄くなった。政策面でも22年はウクライナ侵攻直前だったロシアに対する中国の配慮が目立ったが、今回は逆になった。ロシア側には、ウクライナ戦争が泥沼化して、中国から支援を得る必要性が増したという事情があるとみられる」
中国は、苦境に立つロシアが負担になっている。米中対立が激化した理由の一つは、ウクライナ侵攻が災いしている。
(5)「ロシア産天然ガスをモンゴル経由で中国に送るパイプライン「シベリアの力2」建設プロジェクトに関する具体的発表は今回もなかった。ロシア側は中国との話し合いについて「順調だ」と言い続けているものの、実際には難航しているようだ。ロシアの天然ガス事業を独占している国営企業ガスプロムのミレル最高経営責任者(CEO)はプーチン大統領訪中に同行すらしなかった。話が進む見込みがなかったからだろう」
中国は、パイプライン「シベリアの力2」の供給するガス価格の大幅値引きを要求している。ロシアが、これに難色を示しており、プロジェクトは契約できずにいる。
(6)「トップセールスに熱心なプーチン大統領は北京のほか、東北地方のハルビン(黒竜江省)にも赴いて、中ロ博覧会の開幕式に出席した。しかし、ハルビンへ同行した中国側指導者は習主席ではなく、韓正国家副主席だった。韓氏は副大統領に当たるポストにあるとはいえ、共産党の最高指導部である政治局常務委員会からは既に引退しており、重要な問題について実質的な話ができる立場にはない。習主席は昨年4月、マクロン仏大統領と北京で会談した後、華南地方の広州(広東省)に同行して、そこで再び会談している。北京からハルビンは広州よりはるかに近いのに、プーチン大統領はマクロン大統領と同等の扱いを受けなかった」
習氏は、フランス大統領マクロン氏を国賓として招き2日間もつきっきりで接待した。プーチン氏のハルビンへの立ち寄りには同行せず、接待に差を付けている。
(7)「中国メディアでも、ロシアと距離を置く論説が出ている。党機関紙『人民日報』系の有力紙『環球時報』の前編集長でオピニオンリーダーとして知られる胡錫進氏は5月16日、SNSを通じて、ウクライナ戦争で中国が中立であることを強調する論評を発表。ロシアは中国の友人であり、戦略的パートナーだとしながらも、中ロ関係が中国と西側の関係に対して排他的になってならないと主張し、「中国は一貫して、外交戦略のバランスを実現するために努力している」と指摘した」
中国メディアは、「中ロ関係が中国と西側の関係に対して排他的になってならない」と主張するほどだ。中国にとって、ウクライナ侵攻が迷惑であることを示唆している。
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