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中国では、一部の小売業者が低価格を売りに積極的にシェアを拡大し、大きな利益を手にしている。こうした経営戦略が、厳しい価格競争を一段と激化させており、中国が慢性的なデフレに陥るのではないかとの懸念が高まっている。いわゆる「日本化」現象である。不動産バブル崩壊後の不安心理が招く沈滞ムードである。

 

『ロイター』(6月15日付)は、「中国で安売り店が躍進、近づく『日本型デフレ』の足音」と題する記事を掲載した。

 

(1)「中国の安売り業者は、不動産危機や高い失業率、暗い経済見通しで消費心理が落ち込む中、何とか需要を掘り起こそうとコーヒーから自動車、衣料品に至るまで、あらゆるものを値下げしている。低価格帯の通販「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」のような企業は、電子商取引大手アリババなどライバルに対抗するために値下げに踏み切り、売上高が増加した。しかしエコノミストは、こうした戦略が成功したことによって、中国でも消費者の間に日本型のデフレマインドが定着し、慢性化するのではないかと危惧している」

 

中国の「消費者心理指数」は、22年4月に好不況ラインの100を割って以来、80台という低空飛行を続けている。低価格帯の商品が売れる背景だ。

 

(2)「小売業者は何よりも価格で勝負するため、商品の納入業者は厳しいコスト圧縮を強いられ、利益率が圧迫される。その結果、賃金の伸びが鈍ったり、単発で仕事を請け負う低賃金の「ギグワーカー」(注:インターネット上で仕事を探す労働者)への依存度が高まったりして家計の需要が打撃を受ける。豪メルボルンにあるモナシュ大学のヘリン・シ教授(経済学)は、「この状況が続けば中国は悪循環に陥るかもしれない。付加価値の低い消費がデフレを引き起こし、利益率が悪化して賃金が下がり、それがさらに消費を押し下げるという負の連鎖だ」と警鐘を鳴らす」

 

大都市では、若者の「ギグワーカー」が急増している。劣悪な労働条件で休日なしという状況だ。「生きていくため」に職を選ぶ余地がない。中国は、下線部のような悪循環に嵌まっている。この現実を習近平氏が理解せず、「長征」(1934~35年の中国共産党敗走)の苦難再現とみているほど。現状を乗切れば、光明が訪れると信じているのだ。

 

 

(3)「安売り業者は、直近の決算シーズンで利益が市場予想を上回り、競合他社を凌駕した。ピンドゥオドゥオを運営するPDDホールディングスは131%の増収を記録。フードデリバリーアプリの美団は25%、ディスカウントストアの名創と瑞幸咖啡(ラッキンコーヒー)もそれぞれ26%、42%の増収だった」

 

安売り業者の繁栄は、「悪貨が良貨を駆逐する」の例のように、中国経済全体を沈滞状態へ引き込む「罠」である。日本も、この安売り競争に巻き込まれた。

 

(4)「消費者心理がどん底に近い環境では、価格こそが王様だ。中国の自動車メーカーは国内需要の低迷を受けて、ほぼ2年にわたり価格競争を繰り広げており、一部のディーラーや自動車金融会社はこの2カ月間に頭金なし、さらには金利ゼロなどのローンプログラムを開始した。米スターバックスは、「安売り業者間の熾烈な競争」(ラクスマン・ナラシムハン最高経営責任者)のせいで第1・四半期に中国での売上高が8%減少。この数カ月で割引クーポンの利用を増やし、価格をラッキンコーヒーに接近させている」

 

下線部は、初めて明かされた事実である。自動車販売で、「頭金なし・金利ゼロ」の販売が始まっている。日本でも、こういうケースがあった。苦い思い出である。

 

(5)「中国欧州国際ビジネススクール(上海)のアルバート・フー教授(経済学)は「長期的には価格競争によってさまざまな産業で弱小プレーヤーが淘汰され、生き残った企業は価格を引き上げてサプライチェーンに一息つかせることができるようになるかもしれない」と話した。ただ、こうした展開が可能になるのは、価格競争が引き起こす市場からの業者撤退を補うだけの雇用と所得が他の産業で創出された場合に限られるとくぎを刺す。フー氏は、「デフレは深刻な問題であり、日本は30年以上もこれと闘ってきた。重要なのは賃金の伸びだ」と強調した」

 

価格競争は、決して悪いことではない。ただ、同時に賃金も上がるという前提がつく。本当の競争は、商品に付加価値を高めそれに相応しい値段で売ることだ。賃金を上げないでの安売り競争は、自滅に繋がる。中国は、この状況へ向っている。