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ウクライナ戦争が引き金

円キャリー取引が主犯に

日銀の利上げ環境が整う

米失業率上昇で利下げへ

 

円安が止まらない。6月26日夜に1ドル=160円台と37年半ぶりの円安・ドル高水準をつけて、日本経済への影響が懸念される段階となった。輸入物価の上昇が消費者物価へ跳ね返り、春闘の賃上げ分を帳消しにしかねない危機感だ。輸入物価の上昇は、約6ヶ月後に消費者物価上昇となる。 

円安を巡っては、日本経済にプラスになるという説も現れている。海外からの観光客(インバウンド)が増えているからだ。2024年1~3月期の訪日客消費は、年換算で名目7.2兆円と10年で5倍にも拡大した。7.2兆円という規模は、日本の品目別輸出額と比べると、23年に17.3兆円だった自動車の半分以下だが、2位の半導体等電子部品(5.5兆円)や3位の鉄鋼(4.5兆円)を上回っている。 

円安を生かした経済政策として、インバウンド消費は高評価を受けている。だが、日本経済全体の「損益計算書」から言えば、赤字計算である。交易条件(輸出物価指数÷輸入物価指数)が悪化しているのだ。これは、輸出1単位で購入できる輸入の量が減ることである。交易条件の改善は逆に、一定の輸出で沢山の輸入を賄えるメリットがある。国内の多くの人々が経済的に潤うのである。円安よりも円高が、ハッピーなのだ。

 

円安は、海外から高く仕入れて安く売ることである。これは、ビジネス原則に反する事態だ。長く続くことは、日本にとって極めて危険な話である。「円安歓迎論」は、日本経済にとって歓迎すべきことではない。 

ウクライナ戦争が引き金

現在の円安相場は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻がきっかけであった。エネルギー価格が一斉に値上がりして、円相場は急速に円安局面へ移行した。同時に、世界的なインフレ懸念を深めたことから欧米で金融引き締めが始まった。長く続く円安相場は、欧米の金利高と日本の「マイナス金利」による金利格差拡大がテコになった。 

日本経済の構造的脆弱化は、円安要因であるとの主張がされている。その主張を紹介しておきたい。 

1)日本の国際収支悪化。

2)縮小できない日本と他国の名目金利差。

3)脱出できない日本の実質マイナス金利。 

簡単に説明しておきたい。

1)国際収支の悪化は、具体的には貿易収支の悪化である。ロシアのウクライナ侵攻が始まった22年2月以降、原油や天然ガスの国際相場が急騰した。日本の貿易収支は、これ以降に赤字幅が拡大。21年は121億ドルであった赤字が、22年は1503億ドルと前年の12倍もの赤字になった。23年は国際統計(ドルベース)で未発表だが、円ベースでは次のようになった。 

日本の貿易赤字推移

2022年度 22兆0350億円

  23年度  5兆8919億円

  24年度  2兆0860億円(予想)

出所:日本貿易会 

日本の貿易赤字は、22年度の22兆円が24年度は2兆円へ激減する予想となっている。これだけの赤字縮小でも、円相場には反映せず逆に円安が進行している。世上では、貿易収支の赤字が解消されないことを円急落の理由にあげている。だが、現実の貿易赤字は急速に縮小しているのだ。とすれば、円安相場に「ストップ」が掛ってもいいはずである。 

2)縮小できない日本と他国の名目金利差は、事実である。日本は、4月に「マイナス金利」を撤廃し、6月時点の短期金利は平均0.14%である。米国の政策金利は、5.25~5.50%である。日米の金利差は、実に5.11%以上である。これだけの差があるので、円キャリー取引(円を借りて他通貨へ投資する)は自由自在である。円が、投機筋へ儲けのチャンスを与えているのだ。日本としては、「切歯扼腕」(せっしやくわん)状態だが、どうにもならないのである。

 


日本銀行はこれまで、為替相場対策に金利操作を行わないと「大所高所」論に立っていた。だが、円安にともなう消費者物価上昇率が家計実質所得をマイナスにさせるという危機感を高めている。こうして、利上げに踏み切らざるを得ない羽目に追込まれている。惜しむらくは、マイナス金利撤廃時の植田日銀総裁発言が、市場で「円安容認論」と受け取られたことだ。あの時の発言が、円安ストップへの歯止めを失わせてしまった。痛恨事であった。狼(投機筋)を野に放ったのである。 

3)脱出できない日本の実質マイナス金利は、否定できない事実である。日銀が目指すインフレ率は2%である。日本の実質金利をプラスにするには、2%以上の政策金利が必要である。現状から言えば、日本経済が急回復しない限り不可能である。ただ、日銀は中立金利(正常金利)を1~2.%程度と推計している。幅を持ってみる必要はあるが、長期金利が数年先に2%程度まで上昇する可能性を予見させる。となると、実質金利がマイナスという前提で固定的にみるべきでないだろう。(つづく)

 

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