フランスで極右の首相が登場するのか危惧されてきた下院選は、最新の世論調査の結果、過半数に達しない見通しとなった。ただ、マクロン大統領の基盤である与党は3位に沈む公算が強まっている。マクロン氏の強行した下院解散戦略は、完全に目論見を外れた形だ。
『フィナンシャル・タイムズ』(7月4日付)は、「仏下院選、極右は過半数に届かない見通し 世論調査」と題する記事を掲載した。
調査会社ハリス・インタラクティブの世論調査によると、フランスの国民議会(下院、定数577)選挙で極右の国民連合(RN)は単独過半数に届かない見通しとなり、議会は大きく分裂した状態に戻りそうだ。7日に行われる決選投票で(どの政党も過半数に届かない)ハングパーラメントに陥るとの予測が現実になれば、フランスはいずれの会派も政権樹立に必要な議席を確保できず混迷期に入ることになる。
(1)「ハリスの世論調査(7月2~3日実施)は、複数の仏メディアの依頼を受けて実施された。これによると、RNと共闘勢力は190〜220議席を確保する見通しだ。だが、首相を指名する議会多数派を握るには過半数の289議席が必要で、それには遠く及ばない。新たに設立された左派連合の新人民戦線(NFP)は、159〜183議席を確保して2位に付けるとみられている。マクロン大統領率いる中道の与党連合は135議席にも届かず、解散前の半分またはそれ以上に減る見通しだ。解散総選挙に打って出るというマクロン氏の決断が間違いだったことが鮮明になった」
極右のRNは、最大限220議席で、過半数の289議席へ遠く及ばないことが分った。左派連合の新人民戦線(NFP)は、最大限183議席。マクロン大統領率いる中道の与党連合は、135議席と3位である。
(2)「現時点では、獲得議席数を正確に予想することは難しいとアナリストは指摘する。だが、RNが実際に単独過半数を獲得できないとすれば、対抗勢力が連携して「共和戦線」を張った戦略が奏功したと言えるだろう。RNが大差で得票率首位を獲得した6月30日の1回目の投票後、中道派と左派勢力は選挙協力で合意し200人前後の出馬を取り下げた。ルペン氏が主導する極右勢力の政権獲得を阻止するために連携する戦法だ」
中道派と左派勢力は、選挙協力で合意し200人前後の出馬を取り下げた。この協力関係から言えば、新たな下院でも協力すれば、合計議席は最大限318議席で過半数を上回る計算になる。
(3)「決選投票で候補者を絞れば、左派と中道派の支持者は通常なら支持しない政党に投票をせざるをえない。とにもかくにもRNが次期議会に送り込む議員を減らすためだ。仏内務省の集計によると、候補者3人で争う選挙区は306区から89区に減った。有権者が政党首脳の思惑通りに投票するかどうかは不透明だ。初回投票で投票率が高水準に達しただけに、決選投票でも投票率がカギを握る。夏季休暇や投票したい候補者が出馬を取り下げたいら立ちから、投票率が下がるのではないかと懸念する政党幹部もいる。RNにとっては、単独過半数を獲得する可能性が後退しても支持者を投票所に向かわせることができるかどうかが重要になる」
決選投票では、候補者3人で争う選挙区は306区から89区に減った。候補者2人では、極右は不利になろう。フランス国民も、極右を選ぶことに戸惑いが出るという前提である。
(4)「ユーロ圏2位の経済規模を持つフランスは、政治で行き詰まり成長が鈍化すれば、仏国債の約半分を保有する外国人投資家にとってフランスの長期的な魅力が薄れかねない。議会が3分裂しそうな公算が大きくなるなか、各党首脳は他党との連携の可能性を探る意向を示し始めた。マクロン氏が首相に任命したアタル氏は、中道派で単独過半数は取れないと認めたものの、個別の政策ごとに協力余地がある政党と連携する「多元的な議会」の構築を呼びかけた」
フランスは、政治状況が混迷すれば経済政策の一貫性が損なわれる懸念も生じよう。仏国債の約半分を保有する外国人投資家にとって、フランスの長期的な魅力が薄れかねない事態を迎えようとしている。
(5)「アタル氏は、公共ラジオ局フランス・アンテルで3日、「中道連合で最大限の議席を獲得したい。そうすれば、(法案ごとに)合意を取り付けて前に進むことができる」と述べた。そうした動きに先鞭をつけたのはヨーロッパエコロジー・緑の党のトンドリエ事務局長だが、同氏は中道派と連携する場合でもマクロン氏やアタル氏の提示条件ではなく、左派の提示する条件で行うとクギを刺した。「この国で前例のないことに踏み出さなければならないのは間違いない」。同氏は仏テレビTF1のニュース専門局でこう語った」
アタル首相は、極右を除いた中道連合を構想している。法案ごとに、合意を取り付けるというもの。この狙いがうまく行くかどうか。
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