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中国は、欧米の銀行にとって成長確実で利益の上がる「金城湯池」(こんじょうとうち)と見られてきた。この夢は現在、粉々に破壊されている。不動産バブル破綻による泥沼状態に喘いでいるからだ。欧米の有力7行は、2023年の年次報告書を発表して、中国現地法人7行で5行が赤字に陥ったことが判明。21年は7行中6行が利益を確保していたのだ。 

『フィナンシャル・タイムズ』(7月2日付)は、「欧米の大手銀、経済不振の中国で投資銀行部門を縮小」と題する記事を掲載した。 

欧米の大手金融機関が中国の投資銀行部門の人員削減に動いている。現地経済の不振で案件が減り、利益が上がらなくなったためだ。近年に例がないほど大幅なリストラに踏み切り、長年の拡大路線を修正した。

 

(1)「欧米銀7行が最近発表した2023年の年次報告書によると、投資銀行業務などを手掛ける中国の証券現地法人は7社中5社が赤字か減益だった。7社の従業員は計1781人で、前年の22年から13%減った。中国は長引く不動産市場の低迷と、米国との地政学的緊張の高まりで経済成長が鈍り、資本市場も低迷している」 

欧米投資銀行7行の中国現法は、23年の決算で5行が赤字に転落した。この結果、大幅な人員削減へ踏み切っている。 

(2)「米コンサルティング会社アジア・グループで中国を担当するカントリーディレクターのハン・リン氏は、「欧米の投資銀行は悪循環に陥っている」と話す。「案件が減少すれば将来への投資も減り、それがさらに案件の落ち込みにつながっている」と指摘、「インドや東南アジア、米国などのほうが有望にみえるので(中国に対し)我慢の限界を超えた」銀行もあるという。中国では20年の一連の規制改革で、現地の証券会社に対する外資の出資規制が撤廃された。もっとも欧米の大手銀にとって、中国証券現法の利益は全体のごく一部にすぎない」 

中国経済の不振は、我慢の限界を超えているという。インドや東南アジアなどの方が、はるかに成長性に富んでいるという判断だ。まさに、中国は「落ちた偶像」と化している。

 

(3)「欧米の大手銀は23年、M&A(合併・買収)や新規株式公開(IPO)の減少で手数料収入が激減したため、全世界で従業員を6万人減らした。中国事業の不振は、他国での事業が減速しても中国では成長が続くだろうという当初の期待が裏切られたことを示している。米JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は5月の会議で、中国での投資銀行業務の一部が不振だったことを「崖から落ちてしまった」と評した」 

米JPモルガン・チェースのダイモンCEOは昨年5月、パンデミック解除で訪中したが、余りの停滞ぶりに記者会見も行わなかったほど。それまでの期待感が、一挙に剥落したのだろう。 

(4)「欧米大手銀の中国の従業員数は、18年以来ほぼ一貫して増えてきた。新型コロナウイルスの感染拡大による行動制限で新規採用が困難だった20年でさえ、3%弱しか減らなかった。23年にスイスのUBSに救済合併されたクレディ・スイス・グループは、中国の従業員が126人と46%減った。UBSは最近、この拠点の売却で政府系ファンドと合意した」 

UBSは、合併したクレディ・スイス・グループの中国現法を政府系ファンドへ売却する。そこまで業績が低下しているに違いない。

 

(5)「米モルガン・スタンレーの中国現法は、19年以来の赤字に転落した。モルガン・スタンレーは年次報告書で中国事業の収益環境が「厳しかった」とコメントしている。JPモルガンでは利益が55%減の1億1900万元(約26億円)と半減した。ゴールドマン・サックスは23年、現地の証券現法、高盛高華証券を完全子会社化した。この子会社は22年の赤字からは回復したが、23年の利益は1億9300万元と18年以来で最も少なかった」 

米モルガン・スタンレーの中国現法は、19年以来の赤字に転落した。JPモルガンの現法は、利益半減である。ゴールドマン・サックスは23年、現地の証券現法を完全子会社化した。利益は、18年以来の最低へ落込んだ。 

(6)「中国企業の海外上場は、昨年導入された規則によって、中国当局の承認が必要になった。M&Aなど国際的な案件も依然低調だ。投資銀行部門の不振は中国で展開する事業の全体像を映していないかもしれない。一部の欧米銀は、中国に証券現法以外の拠点も持っている。中国本土での事業で築いた人脈を使い、香港など本土以外で収益を上げることも多い。23年は欧米の大手銀にとって21年とは様変わりした。21年は7行中6行が中国本土で利益を確保した」 

21年は、欧米投資銀行7行中で6行が中国本土で利益を確保した。23年は、7行中5行が赤字へ転落している。中国経済の激変ぶりが手に取るように分る。