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広大な中国国土は、「南船北馬」の言葉通りに水資源の偏りを示している。中国南部は水運に恵まれている。北部は、水資源の不足に悩まされ交通は馬に頼るという比喩である。中国は、このアンバランスな水資源問題を解決すべく、南部から北部へ運河を掘って水を送っている。これだけの大工事を行いながら、水資源の節約策はゼロだ。北部での水道料金は「タダ同然」である。これからの異常気象が、節水などと無縁な中国社会へ大きな課題を突きつけている。 

英誌『エコノミスト』(7月6日付)は、「中国の水問題、深刻化は不可避」と題する記事を掲載した。 

中国の中央部と北部の一部の水不足はそこそこ深刻になると予想される。中国人口の4割が暮らす北部の省の多くは、国連が定めた「水供給の基準」に足りない。一方、南部では集中豪雨が以前より頻発しており、6月には洪水と土砂崩れで数十人が死亡、数千人が避難を強いられた。だが南部では、この3年毎年干ばつも起きている。

 

(1)「世界の淡水に占める中国の割合はわずか6%だが、これで世界人口の2割を占める同国民の渇きを満たさなければならない。そのため中国の指導者らは長年、水を比較的豊富な地域から少ない地域に運ぶ大型インフラ計画を進め、水不足に対応してきた。ただ、水需要が拡大するなか天候不順が悪化しているため、水移転計画は一段と複雑さを深めている。問題は干ばつと洪水だけではない。中国(および東南・南アジア)の主要な河川の水源であるヒマラヤ山脈高地の氷河が縮小し続けている。1950年代以降、地表を覆っていた氷河の5分の1が解け消失した」 

中国の主要な河川の水源は、ヒマラヤ山脈高地の氷河である。この氷河は今、5分の1が地球温暖化で消失した。この傾向は、これからさらに強まる。中国の水不足を告げる重大な徴候である。

 

(2)「今は解けた氷河が中国の一部地域を潤し、西部に広がる砂漠地帯のオアシスに花を咲かせている。だが21世紀半ばには氷河からの雪解け水が減り始めると予想されている。その影響を受ける地域の一つが、1200万人が暮らし、水源の約4割を雪解け水に依存している中国北西部のタリム盆地だ。中国科学院の研究者らの推計によると、1984~2015年の異常気象が中国経済に与えた損失は、干ばつだけで年間70億ドル(約1兆1000億円)に上る。世界の平均気温が産業革命前から1.5度以上上昇すれば、損失額は同470億ドルまで膨らむおそれがある。温暖化ガス排出量が今のペースで増え続けた場合、30年代までにその水準を上回る可能性がある。中国の23年のGDPは約18兆ドル弱だ」 

あと20数年後には、中国の水不足が深刻化する。ヒマラヤ山脈氷河の雪解け水が減り始めるからだ。その備えは、全くゼロである。「中華再興」どころの話でなくなるのだ。

 

(3)「中国が23年に水インフラに投じた額は1兆元(約22兆1000億円)を上回る。その大半が水道管網の充実と、水漏れによる損失を防ぐための貯水槽の整備に充てられた。しかし政府は、多くのアナリストが必要性を指摘している水需要そのものを減らす対策はほぼ講じていない。需要を減らすには水不足の実態を伝え、水道料金引き上げや節水を奨励する必要があるが、政府は水道料金を人為的に低く抑えている。中国北部の住民が負担する一般的な水道料金は、水が豊かな米国の水道料金を大きく下回る。水道代を全く負担しなくてよい農家もある」 

中国の水資源対策は、供給増だけを重視して需要抑制対策はない。下線部のように、中国北部の水道料金は、水の豊富な米国を大きく下回り、コスト回収からほど遠い料金設定である。中国の水問題は、永遠に解決不可能である。

 

(4)「政府の政策が、かくもちぐはぐなため信じがたい事態が起きている。データセンターは大量の冷却水を使うが、非営利組織チャイナ・ウォーター・リスクの4月発表の報告書では、中国のデータセンターの41%が干ばつの影響を受けやすい地域にある。大量の水を必要とする石炭火力発電所の多くも似た状況にある。水道料金が上昇すれば、大半の地域で農業の収益性悪化は避けられないだろう。中国には、食料輸入を増やし、水資源にもっと恵まれた他の諸国に水需要を負担してもらう選択肢もある。だが中国共産党は食料安全保障を非常に重視しているため、その道を選ぶ可能性は低い」 

下線部は、中国の場当たり主義を示している。これで、世界の覇権を狙うというのだから驚きである。 

(5)「政府は現時点では水道料金の引き上げより、運河の建設と水道管の修復にはるかに強い関心があるようだ。温暖化が進む今、そうした姿勢は近視眼的に思える。英シンクタンク戦略地政学評議会のアソシエートフェローであるチャールズ・パートン氏は、中国のどこかで水の危機が発生し、それが広範囲の電力不足と食料価格の高騰を招く事態は避けられないとみている。もし中国政府が水需要の抑制への取り組みを遅らせるのであれば、「それだけ問題はさらに深刻なものになる」と警告する」 

中国の繁栄は、架空のものという印象を強めるほかない。永続性がないのだ。不動産バブル崩壊後も、問題を解決せずに放り出している。これが、中国の本当の姿であろう。