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米国ドルの威力が、どれだけ大きいか。それを端的に示すのは、外国銀行がドル決済網から排除されることだ。中国人民元が逆立ちしても、米ドルの前には屈服せざるを得ない事情はこれである。中国は、よく「米国覇権へ対抗する」などと気軽に言うが、ドル決済網を利用できなければ、中国貿易は身動きできないのだ。米ドルには、こういう重みがある。中国の台湾侵攻でも、「ドル決済網からの排除」が大きなブレーキになる。

 

米国が、ウクライナ侵攻を続けるロシアへ経済制裁をより効果的に行うためには、ロシアと金融取引する國の通貨をドル決済網から排除すれば事足りるのだ。「セカンダリーサンクション」(二次制裁)と呼ばれるものである。中国は、これが発動されたら孤立する。むろん,他国へも飛び火するので簡単に発動できないが、「威圧感」はメガトン級である。

 

『ブルームバーグ』(7月9日付)は、「ロシアの人民元利用が伸び悩み、二次制裁リスクで中国の銀行が尻込み」と題する記事を掲載した。

 

ロシアは、プーチン大統領が始めたウクライナ侵攻で西側の金融システムから締め出され、それを補おうと中国人民元の利用を急速に進めてきた。それも、限界に達している可能性がある。ロシアと取引を続けている国には、米国の圧力が強まっている。とりわけ恐れられているのは二次制裁で、これが二国間の貿易や決済を阻害し、ロシアの人民元利用拡大を抑える有効なブレーキとなっている。

 

(1)「昨年12月、米国は外国金融企業に対する二次制裁を承認し、中国国有銀行はロシア顧客の資金調達に対する制限を強化した。中国税関のデータによると、ロシアの対中貿易額は2年間で60%余り増えて2023年には2400億ドル(約38兆6500億円)に達し、ドイツやオーストラリア、ベトナムを追い抜いた。中国はロシアの石油などコモディティーを割安な値段で購入する一方、ロシアは消費財やハイテク製品への幅広いアクセスを得ている」

 

米国は昨年12月、外国金融企業に対する二次制裁を承認した。これが、中国の対ロ輸出に大きなブレーキになった。

 

(2)「中国が取り組む国際決済での人民元の役割拡大に、ロシアは極めて大きく寄与している。ロシアの対中貿易はほぼ全て人民元建てで、ロシアの人民元建て輸出は中国への輸出額を上回る。これは第三国もロシアに人民元で支払っていることを示唆する。ウクライナ侵攻開始前の2022年初め時点で、ロシアの人民元利用がほぼゼロだったことを考えると、ロシア経済の人民元化がいかに急激だったかが明らかだ」

 

ロシアは、対中輸出だけでなく第三国向け輸出でも人民元で受け取っている。米ドルを使えない結果だ。

 

(3)「今年1-5月の中ロ貿易は、前年比わずか3%増で前年の42.5%増から大きく減速した。中国の税関データを基にしたブルームバーグの試算で明らかになった。ロシア中銀の見積もりによると、友好国の通貨で行われたロシアの貿易の割合も、前年比で増えてはいない。BEのイサコフ氏は、「ロシアの人民元利用は23年にピークを付けた可能性がある」として、二次制裁の恐れから中国大手金融機関の一部がロシアとの取引を手控えていること、第三国が依然として人民元での支払い受け入れに消極的なことを挙げた。ロシアの人民元利用はほぼ石油輸出が主導しており、石油価格が向こう数四半期にわたり停滞すれば、ロシアの人民元貿易も停滞するだろうと同氏は予想する

 

中ロ貿易は、23年の42.5%増が一転、今年1-5月は前年比わずか3%増である。中ロ貿易は、ピークを打ったとも見られる。米国による二次制裁の影響だ。

 

(4)「中国の大手銀行の一部は、ロシアからの人民元受け取りを停止し、数カ月にわたりロシアの輸入に影響が及んだ。プーチン大統領が習近平国家主席と5月に会談し、小規模の地方銀行を利用することで問題は解決したとロシア企業が同国メディアに説明したものの、当局者らは懸念が残っていることを示唆する」

 

中国の大手銀行は、対ロシア貿易で人民元による取引を停止した。米国の二次制裁を恐れているのだ。

 

(5)「カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのディレクターで、中ロ関係を専門とするアレクサンドル・ガブーエフ氏は、「人民元の利用には一定の限界があり、まずロシアの対中貿易額に左右される」と指摘。「また、人民元が第三国との決済通貨としてどれだけ普及するかにもかかっている」と語った」

 

人民元は、対ロシア貿易では使われても、第三国の決済通貨としてどれだけ普及するかがポイントになる。現在の人民元は、ローカル・カレンシーの域を出ていないのだ。米ドルの代替役は不可能である。世界貿易が米ドルで回っている以上、人民元の入り込む余地はないのだ。