a0001_002230_m
   

大型経済対策は期待薄

人口急減で負担が急増

住宅在庫は6千万戸も

空虚な「中国式現代化」

 

中国共産党の「3中全会」が7月15~18日に開催される。3中全会は、習近平政権3期目の政策課題が審議される重要な会議だ。過去の3中全会では、改革開放のように中国史の流れを変えた重大改革措置が発表されてきた。今回は、どのような決定がされるのか世界の関心が集まっている。

 

3中全会は、各期の政権発足翌年に開催されるのが慣例である。普通であれば、2023年秋に開かれるはずだった。それが、今年にずれ込んだ理由はいくつかある。中国経済の不振と、政治的混乱の頻発である。この二つの要因が、習近平中国国家主席を悩ませたのであろう。具体的に言えば、経済不振では不動産バブル崩壊後の不良債権激増である。政治混乱では昨年夏、秦剛外相と李尚福国防相が相次いで解任された一件だ。

 

大型経済対策は期待薄

習氏は、これら問題が「解決した」として、今回の3中全会開催を決めたのであろう。だが、政治的混乱は決着がついたとしても、経済不振はそのまま持ち込まれている。今回の3中全会で、多くの関心が経済問題に集まる理由である。一部は、大々的な景気浮揚策を期待しているが、その可能性は低いとみられる。

 

中国の李強首相が最近、「中国に現在必要なのは“固本培元”(根を固めて精を育てる)」と述べたことだ。李氏は、中国経済はこの数年間コロナ事態で重病にかかり、現在は回復段階にある。「この時期に劇薬を使ってはいけないというのが中医理論」としている。ここでは、劇薬とか中医理論という言葉を比喩的に使っているが、李首相の本音は次のように理解すべきであろう。

 

「劇薬」とは、財政支出の拡大である。まさに、西側経済学であるケインズ流の経済政策の実行だ。「中医理論」とは、漢方医療である。李氏が、これらの言葉の中で示唆しているのは、不動産バブル崩壊後の経済回復策は、財政支出の拡大に依存することなく、時間をかける漢方医療を用いるというのであろう。

 

この漢方医療とは、習近平氏が好んで用いる「中国式現代化」を指している。この言葉は、現代化=西欧化を拒否して、中国式=社会主義による現代化である。今回の3中全会の主題は、「全面的な改革深化と中国式現代化の推進」だ。改めて、これに注目する必要があろう。習近平氏が、今回の3中全会を通じて成し遂げようとするものは、社会主義的改革を全面的に深化させ、中国式の現代化を達成することにある。

 

習氏の頭には、富裕層への「強制課税案」が浮上しているであろう。これを実行して、地方財政赤字を穴埋めさせたい。「中国式現代化」構想では、こういう思惑が絡んでも不思議はない。富裕層は、すでにこれを見越しており、出国を急いでいる。

 

今回の3中全会の主題に添って考えれば、目先の景気回復は「些末」なことになる。あくまでも、習氏の理想とする「中国式現代化」路線に従い、10年、20年先を見据えた「中華再興」への青写真であることを明白にしている。問題は、10~20年先の中国経済に期待が賭けられるのかだ。

 

人口急減で負担が急増

習近平氏の壮大な夢に水をかけるようで申し訳ないが、中国にはそういう時間的ゆとりがなくなっている。中国人口が、これから急速に減少するという最新の国連人口予測が発表された。それによると、中国人口は2100年に半減(正確には56%減)するのだ。その予測結果を示したい。

 

国連による人口予測

     2024年   2054年   2100年

中国  14.19億人  12.15億人  6.33億人

米国   3.45億人   3.84億人  4.21億人

出所:国連「世界人口推計」(2024年版)

 

中国人口が、これから一貫して減り続けることは高齢者が増え続けるという意味である。生産性が低下する中で、社会保障費がウナギ登りに増える。一方の米国は、移民増加という最大の「人口プール」を抱えており、人口問題は自由自在に操作できる強みを持っている。中国へ移民したい人は存在しないが、米国へ移民したい人々は今日もメキシコ国境へ殺到している。米国の自由で豊かであるというイメージが、世界の移民を集めているのだ。

 

中国の強みであった人口世界一は、すでにインドに取って代わられた。これからは、一転して人口減という逆回転に遭遇する。中国は、この中で生き延びなければならない運命になった。米国と対決して、世界覇権を目指す客観的な条件は全て剥落したと言ってよい。

 

中国では、高齢者介護保険制度が、未だ整っていないのだ。習氏は、個々の家庭で高齢者の面倒をみるようにと発言している。その一方では、軍備を拡大して「台湾侵攻」に備えるというアベコベのことに国力を消耗させている。台湾侵攻が成功すれば、習氏の個人的名誉になるが、国力を疲弊させて国民生活の豊かさは犠牲になる。台湾侵攻が失敗すれば、習氏は不名誉のどん底に突き落とされる。いずれにしても、台湾侵攻は中国へいい結果をもたらさないのだ。(つづく)

 

この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

https://www.mag2.com/m/0001684526