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中国経済は、3年間のパンデミック下の苦境に加え、本格化する不動産不況の重圧に喘いでいる。生活実感に近い名目GDPは、4~6月期に4.0%増で、実質成長率4.7%を下回る「名実逆転」が5四半期連続している。デフレ圧力の根強さを示しているのだ。こういう状況で、地方政府は住宅販売不振で土地売却収入が急減し、歳入に大きな穴が開いている。 

そこで編み出したのが、市民への罰金取り立てである。この罰金が、市の歳入で3割も占める異常な事態が起こっている。強気を鳴らす習近平氏が、こういう事態を認識しているのか疑わしい。 

『毎日新聞』(7月15日付)は、「中国の地方財政は罰金頼み? 税収の3割占める街に不満『悪循環だ』」と題する記事を掲載した。 

中国経済の低迷が続く中、中国各地で罰金の徴収が増えている。背景にあるのが地方政府の深刻な財政難だ。「罰金の街」として有名になった東北部・遼寧省盤錦市を歩いてみた。

 

(1)「郊外の高速鉄道の駅から乗車したタクシーの男性運転手(42)に罰金の話題を振ると、苦笑しながら「実は先月も交通違反で罰金200元を払ったばかりだ」と教えてくれた。客を拾うためUターンした場所が運悪く禁止区域だったという。市内に張り巡らされた監視カメラで撮影された写真とともに違反通知が届いた。「反論しても良いことは何もないからすぐに支払った。ただこの不景気の中で、罰金で一日の稼ぎの大半を持って行かれるのは本当に痛い」とため息をついた」 

タクシー運転手は、Uターン禁止区域へ入ったために罰金200元(約4400円)を科された。1日の稼ぎの大半である。 

(2)「盤錦市は、2021年に29億7672万元(約655億円)もの罰金を徴収して全国的にも有名になった。市の税収の27.9%にも相当する規模で、市民1人あたり年間約5万円の罰金を支払っている計算となる。渤海の最北端に面するこの都市は、石油を産出する「油城」として1970年代以降、急速に発展したが、90年代半ばをピークに産出量は減少。資源枯渇型都市から脱却するため産業転換を進めている最中に新型コロナウイルス禍が直撃した。現在も税収はコロナ前の水準に回復していない」 

盤錦市は、2021年税収の27.9%を市民への罰金で補っている。典型的な「警察監視都市」である。

 

(3)「罰金収入の割合が高いのは盤錦市だけではない。中国メディアの報道では黒竜江省七台河市、内モンゴル自治区オルドス市、広西チワン族自治区梧州市などは、盤錦市を超える割合の罰金収入とも指摘される。罰金による増収は市民の反発を招くため、データを公表していない都市も多く、詳細を確認することは難しい状況だが、国家統計局の統計で地方財政全体の推移を確認すると、税収は伸び悩んでいる一方で、罰金収入は右肩上がりとなっている。罰金収入が地方都市の重要な財源となっていることは明らかだ」 

地方財政の歳入は、伸び悩んでいる。だが、罰金収入は右肩上がりで重要な財源になっている。哀しい現実だ。タコが自分の足を食っているような現象である。 

(4)「中国では3年間のゼロコロナ政策により防疫コストがかさみ、多くの地方政府の財政状況が悪化した。そこを不動産不況が直撃した。地方政府にとって財源の柱の一つだった土地使用権の売却収入が激減。景気低迷により税収全体も減っている。そのため地方政府が企業に対して数十年前の未納税を請求するといったケースも相次いでいる。中国政法大財税法研究センターの施正文主任は経済紙『第一財経』の取材に「近年は地方財政収支の矛盾が拡大し、一部の地域では『増収のための罰金』『利益追求のための罰金』となっている」と指摘する」 

地方政府は、「増収のための罰金」や「利益追求のための罰金」という世も末のことを始めている。こういう不条理の積み重ねが、政権への信頼度を低めている。

 

(5)「実際に中国国内のSNS(ネット交流サービス)では、「増収のための罰金」と思われるケースが話題になっている。「知人から買い取ったセロリを転売して14元(約300円)の利益を得た農家に対して地方政府が残留農薬を理由に10万元(約220万円)の罰金を言い渡した」「耳かき店を無認可で営業したとして22万元(約480万円)の罰金を命じた」といった事例だ。これに対しては、SNS上でも「罰金が高すぎる」「職権の乱用だ」などと当局の対応を批判する声が相次いだ」 

下線部は、地方政府が常識を疑う振舞をしている。これは、間違えば「革命への導火線」になり得る事態だ。 

(6)「中央政府も、罰金に対する市民の不満については懸念を深めているようだ。今年2月、国務院(政府)は「罰金の決定は国民の感情を十分に考慮し、法的原則に準拠している必要がある」などと通知。最高検も今月8日、「高額な罰金を科すことは法律の精神に合致せず、行政処罰は『過重罰』を避けなければならない」とする見解を示し、過度な罰金の徴収を控えるよう改めて指示した。しかし、これが抜本的な解決につながるか不透明な状況だ」 

中央政府も、「罰金問題」へ頭を悩ませている。地方政府への財源移譲を増やすしか、問題は解決しないであろう。もう一つ、内需回復への政策転換である。