a0960_008571_m
   

EU(欧州連合)は、第二次世界大戦後に仏独の二ヶ国が、二度の世界大戦という悲劇を繰返さない反省の上に立って和解し、欧州全体の連合の理想主義が実現したものである。こういう経緯からみて、EUは強い理想主義を掲げている。その夢は、ロシアのウクライナ侵攻によって打ち砕かれた。理想主義を実現するには、それを裏付ける「実力」を蓄える必要性を実感させられた。

 

EUは、「脱炭素」という理想も掲げたが、その手段としてEV(電気自動車)一本に頼るという失敗をしている。トヨタ自動車のように、EVのほかにHV(ハイブリッド)や燃料電池車(FCV)や「曲がる電池」ペロブスカイトを自動車の屋根やボンネットに乗せる実験を始めている。EUには、こういう柔軟性がないのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(7月29日付)は、「揺らぐEUの理想主義、EV偏重 企業は面従腹背」と題する記事を掲載した。

 

6月の欧州議会選後、「欧州連合(EU)の理想主義は死んだ」と悲観的、あるいは冷笑的な言説に触れる機会が増えた。むろん「脱炭素」「人権」など進歩的な規範・制度づくりを軸に多国間協調を図る、EUの基本理念を全否定した右翼・極右政党の躍進が背景にある。

 

(1)「理想主義的な政策は最近、綻びが目立っていた。代表例が防衛だ。ESG(環境・社会・企業統治)を順守するあまり、欧州投資銀行(EIB)は域内の防衛産業を「持続可能性がない」と分類。融資対象から外し、米国の軍事力に頼った。ロシアのウクライナ侵略を許し、慌てて防衛強化にかじを切ったが、分類があだとなり中小企業やファンドは今も投融資に二の足を踏む。「気候変動の観点から防衛を捉えるべきではない」。EIB副総裁を2年半務めたフィンランドのストゥブ大統領ですらESG規制を「理解しがたい」と批判する」

 

NATO(北大西洋条約機構)加盟国で、国防費の対GDP比が2%未満の国がゴロゴロしている。トランプ米国前大統領が、ロシアに対して「こういう国は侵略して良い」などと暴言を吐くほどだ。トランプ氏から非難された欧州の国々が、今や国防で目覚めている。長い間、国防を他国任せにするという無責任な態度であったからだ。これも、理想主義偏重の歪みであろう。

 

(2)「ただ、EUが多国間協調を捨て、大国のパワーと国益を重視する現実主義に振れると結論づけるのは早計だろう。確かに2035年のエンジン車の販売禁止を決めた後、大国ドイツの意向を踏まえ、合成燃料の利用に限り販売継続を認めた。2期目が決まったフォンデアライエン欧州委員長は18日、あくまで合成燃料は例外措置だと強調した。政権安定のため環境政党に配慮した点を割り引いても、温暖化ガス排出ゼロを目指す理念は変わらない。独シンクタンク、外交問題評議会の元主席研究員、ベンジャミン・タリス氏は理想主義の失敗を踏まえ、「価値や理念を徹底的に守り、広げることに特化した『新理想主義』が主流になる」と説く」

 

EUが、理想主義を掲げなければ結束は維持できない。その理想主義を実現する「実力」も不可欠である。要するに、「二本立て」である。

 

(3)「揺らぐEUを横目に、企業はしたたかに現実主義的なアプローチを貫く。21年、新たな車台開発を発表した欧州ステランティス。EUの電気自動車(EV)一辺倒の戦略を踏まえ、当初は「EV向け」と説明していたが、需要が失速するとプラグインハイブリッド車(PHV)などエンジン車にも使えることを明らかにした。カルロス・タバレス最高経営責任者(CEO)は、「マルチエネルギー車台戦略で予測できない状況にも適応できる」と胸を張る」

 

企業は,理想主義にばかり酔っていたならば赤字になる。利益を出さなければならないという「現実主義」が裏付けになる。

 

(4)「独BMWは、EVシフトを強調してきた水面下で、水素を使った燃料電池車(FCV)開発を続ける。ライバルが乗用車から商用車に開発主体を移すなか、乗用車向けFCVの本命に浮上する。対照的に、トヨタ自動車はEVだけでなく多様な環境車をそろえる「マルチパスウェイ(全方位戦略)」を公言してきた。異なる理想主義でEUと対立し、EVに後ろ向きだと環境団体や投資家にたたかれた」

 

トヨタの全方位戦略の強みは、今回のEV失速で証明された。全固体電池という本命電池を開発しながらHVという補強策も万全であった。