米大統領選は、共和党のトランプ氏と民主党のハリス氏の対決になるが、ここへ一つの問題が浮上してきた。トランプ氏が、終身大統領制を目指しているのでないかという疑問が湧き起こっているからだ。トランプ氏が、キリスト教徒に向って「今回の選挙で私に投票してくれれば、次から選挙に行かなくても済むようにする」と発言している。この裏には、トランプ氏が、かねてから「終身大統領」になりたいと言い続けてきたことと符節があうのだ。
トランプ氏には、民主主義を普遍的なものと捉えるのでなく、「状況次第」という側面がある。今回の大統領選は、「男性対女性」「保守対進歩」「白人対非白人」の象徴的な戦いになると以上に、法に対する見方が「普遍的」(ハリス氏)か、あるいは「状況的」(トランプ氏)か、を巡る戦いにもなることだ。この点は、世界の民主主義にとって大きなターニングポイントになろう。
『ブルームバーグ』(7月30日付)は、「トランプ氏『終身大統領』発言に偽りなし」と題する記事を掲載した。
トランプ前米大統領は7月26日夜、「終身大統領」になりたいと再びぶち上げた。同氏が好んで展開する持論の1つだ。
トランプ氏はフロリダ州で開催された宗教団体関連のイベントで「キリスト教徒の皆さん、今回だけ投票してほしい。もう投票する必要はなくなる」と呼掛け、こう続けた。「ぜひ投票を。4年後にはその必要はなくなる。われわれがうまく修正し、あなた方はもう投票しなくて済むようになる」と言った。
(1)「トランプ陣営は今回の発言について、王座や王権とは全く関係ないと主張。スポークスマンのスティーブン・チョン氏は、トランプ氏は 「多大な分断をもたらし、暗殺未遂事件にまで発展した敵対的な政治環境とは対照的に、この国を団結させ、すべての米国人に繁栄をもたらすことについて語っていた」と述べた。この解釈にはかなり無理がある。共和党が先頃ミルウォーキーで開催した全国大会で結束に注力すると述べたことを踏まえてもだ」
共和党は、トランプ氏の発言について王権を狙ったものでないと否定している。しかし、トランプ氏の持論であることを忘れてはならない。その機会があれば、「米大統領2期制」を廃止することを否定できないようだ。
(2)「トム・コットン上院議員(共和、アーカンソー)は28日のトーク番組で、トランプ氏は「明らかに冗談を言っている」と述べた。トランプ氏の批判派から擁護派に転じたニューハンプシャー州のクリス・スヌヌ知事(共和)は、発言は大げさな表現に過ぎず、「典型的なトランピズム」だと指摘。選挙の不正操作を意図した発言ではなく、国を立て直すと言いたかっただけだと続けた。リンゼー・グラム上院議員(共和、サウスカロライナ)は、トランプ氏が伝えたかったのは「米国という船を正し、次の世代に引き継ぐ」という点だけだと主張した」
共和党議員は、米国民主主義に危険はないと言っているが、鵜呑みにはできないだろう。米国の上下両院で共和党が多数を握れば発議できるからだ。
(3)「トランプ氏がここ数年、2期務めた後も政権を握りたいと繰り返し発言していることを認識するのが賢明な道筋だろう。11月の選挙で共和党が上下両院議会を掌握し、最終的に少なくとも38州の支持を得れば、憲法をいじり、大統領の任期を2期に制限している憲法修正第22条を廃止することもあり得る。トランプ氏は決して権力の放棄を望んでいない」
米国38州の支持を得れば、大統領の任期を2期に制限している「憲法修正第22条」を廃止することもあり得るのだ。そういう事態になれば、米国もロシアや中国並みに墜ちる。
(4)「そもそも、トランプ氏とその側近らは、2020年の大統領選結果に異議を唱え数十件にわたる訴訟を起こしたが、失敗に終わった。彼らは選挙人の集計結果の正当性を損なうため偽の選挙人名簿を作成し、トランプ氏は選挙結果について争うよう州当局者に個人的に圧力をかけた。2021年1月6日には連邦議会議事堂襲撃をあおり、一段と露骨かつ大胆に選挙結果を覆そうとした。その後も選挙結果は自身に不利になるように操作されたとのうそをつき続けている。過去には、ホワイトハウスに8年いても満足できないかもしれないとも話している」
トランプ派は、2020年の大統領選結果に異議を唱え、数十件にわたる訴訟を起こした。これこそ、「終身大統領制」への憧れを示している証左だ。
(5)「トランプ氏は2018年、中国の習近平国家主席について「今や終身の国家主席となった。終身国家主席だ」とし、「彼にはこれができた。素晴らしいことだ。われわれもいつかやってみる必要があるかもしれない」と発言。2019年には「少なくとも10年か14年間」大統領であり続けるという夢も口にした。同じ年にツイッター(現X)で、自身の支持者らが2期よりも「長くとどまることを要求するだろう」と投稿。2020年の選挙戦の際にも、3期目のシナリオに触れていた」
トランプ氏は、習氏の「終身国家主席」に憧れを抱いている。世界を米中ロの3極の「専制体制」で取引しようという構想なのだろう。
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