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(6)「『アメリカン・コンサバティブ』誌は今年に入り、憲法修正第22条は「2期連続で務めない大統領、ひいては民主主義そのものを恣意(しい)的に制約するものだ」と主張する記事を掲載し、広く拡散した。とりわけトランプ氏支持者らは任期制限で不利な影響を受けるとした上で、「トランプ2028!」を提唱した。トランプ氏は憲法を尊重すると示唆している。今年行った米誌タイムとの長いインタビューでは、憲法修正第22条を覆すつもりはないと語った。「異議を唱えることには賛同しない。私はそんなことはしない」とし、「私は4年務め、素晴らしい仕事をするつもりだ」と語った」

 

トランプ支持派には、憲法修正第22条を修正して「トランプ終身大統領」を狙っている人たちが存在している。

 

(7)「では、タイム誌のインタビューで語ったトランプ氏と、大統領在任中に度々憲法を覆そうとしたトランプ氏のどちらを信じればいいのだろうか。筆者は後者だと考える。トランプ氏は根本的に無法者であり、権威主義者なのだ。もっとも、米議会は11月以降も上院と下院で多数派政党が別のままかもしれない。そもそも、憲法修正第22条の廃止を強行するために数十州の支持を取り付けるのも困難な仕事だろう」

 

トランプ氏が、根本的に「無法者」(状況次第)であり、「権威主義者」であることは否定できまい。北朝鮮の金正恩氏やロシアのプーチン氏に対して見せる、格別の「親近感」にそれを感じる。

 

(8)「トランプ氏は、数十年の月日をかけて、ルールや法律を回避する方法を見いだしてきた。見込み薄の状況であっても、トランプ氏が取り組みの手を緩めることはないだろう。トランプ氏は、かねて任期を超えてホワイトハウスにとどまることを望むと発言しており、26日夜にも再び口にした。われわれはトランプ氏の言葉は本気だと受け止めるべきだ。玉座に就く機会があれば、トランプ氏は逃さず行動するだろう

 

トランプ氏は、法律の抜け穴を探して生き抜く術を体得している人物である。トランプ氏が、終身大統領を意識していることは間違いないであろう。

 

『フィナンシャルタイムズ』(7月26日付)は、「トランプ氏が法を破る理由」と題する記事を掲載した。

 

トランプ氏は、数々の裁判で有罪を言い渡された過去があり(直近ではポルノ女優のストーミー・ダニエルズさんに払った口止め料にからむ裁判があった)、ルールは状況次第だという見方をとる。同氏は支持者にも、こうした「ルールは状況次第」という見方を受け入れるように迫り、自身の有罪評決は政治的な目的のために民主党がでっち上げた「フェイク」だと主張している。

 

(9)「トランプ政権で米通商代表部(USTR)代表を務め、トランプ氏が今年の選挙で勝った場合に財務長官になる有力候補とされるロバート・ライトハイザー氏についても考えてみるといい。筆者が米国以外の政府関係者とともにオブザーバーとして参加した会合で、ライトハイザー氏はいかなる貿易協定も神聖ではなく、普遍的でも恒久的でもないと主張した。逆に同氏が近著で指摘しているように、必要が生じた場合はいつでも国益を守るために協定を改定することができ、改定すべきだと考えている。ライトハイザー氏にとっては、通商法は影響力と力の問題なのだ」

 

トランプ氏の周辺にも、トランプ氏と共鳴する人物が集まっている。トランプ政権が生まれれば、財務長官候補とされるライトハイザー氏は、ルールを曲げるのは「状況次第」の特性を濃くしている。

 

(10)「選挙について押さえておくべき重要なポイントが3つある。第一に、人類学者のジョセフ・ヘンリック氏が指摘したように、トランプ氏が状況的な思考を抱くことは、世界的な歴史の基準に照らすと珍しくない。実際、大半の文化がこうした考え方を持っていた。むしろ、米国の裁判所が高らかにうたう「法の支配」の現代的な理念こそが例外だ。第二に、この普遍主義的な法の支配の概念がこの数十年間にわたって米国のアイデンティティーを定義し、現代資本市場の柱となってきた。大半の投資家はこの概念が覆されるかもしれない世界に対して備えができていない」

 

米国の普遍主義こそ、民主主義の根幹を形成してきた。それが、「状況次第」という事態になれば、米国の同盟国は離れるであろう。米国を信頼できないからだ。

 

(11)「第三に、米国の司法制度がトランプ氏に対する抑制になると考えている人は皆、同氏が法を破ったか(または破らなかったか)どうかについて議論するだけでなく、ルールを「状況的」あるいは「普遍的」に判断する違いについて声高に発信すべきだ」

 

原則は、愚直なまでに守ることが信頼を得る原点である。米国の「中国化」や「ロシア化」は最も避けたい、最も見たくない現実である。