日銀が、土壇場で利上げに踏み切った。植田日銀総裁は、3月のマイナス金利撤廃の際に見せた「弱々しい」姿勢から一転して強気へ。今後の金融政策について、「今回の展望リポートで示した経済・物価の見通しが実現していけば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と断言した。これまで、懐疑的であった市場の雰囲気を一掃する「頼れる日銀」の姿勢を見せた。
これまで、市場は7月の利上げに懐疑的であった。日銀の金融政策は、「物価の安定を図ることと、金融システムの安定に貢献することが目的であり、為替レートの安定は金融政策の目的ではない」という教科書どおりの解説を信じる向きが多かった結果だ。だが、低金利によって円安が進み、物価上昇が起これば利上げは当然の措置である。市場は、この因果関係を読み誤ったのだろう。こうした反省の上に立って、日米の金融政策次第では一段の円高進行を見込む声も出ている。
『ロイター』(7月31日付)は、政策金利0.5%『壁ではない』、経済・物価次第で追加利上げー日銀総裁」と題する記事を掲載した。
日銀の植田和男総裁は31日、金融政策決定会合後の記者会見で、今後も経済・物価情勢が見通し通りに推移していけば追加利上げしていく方針を示し、政策金利について2006年からの前回の利上げ局面のピークである0.5%が「壁」になるとは「認識していない」と明言した。
(1)「日銀はこの日の決定会合で、無担保コール翌日物金利の誘導目標をこれまでの0―0.1%程度から、0.25%程度に引き上げることを決めた。利上げはマイナス金利の解除を決めた3月以来 である。植田総裁は利上げに踏み切った理由として、経済・物価がこれまで日銀が示してきた見通しにおおむね沿って推移していることを最大の理由に挙げた。為替円安で輸入物価が再び上昇に転じ、物価の上振れリスクに注意する必要があることも理由としたが、物価見通しには大きな影響を与えていないと説明した」
消費者物価上昇率が、コンスタントに2%を上回っている現在、利上げを躊躇する理由はなかった。長年にわたり染み渡った「ゼロ金利」意識が、利上げを阻んだのであろう。利上げをすると、「天変地異」が起こるような認識だったのだ。
(2)「植田総裁は、今回の利上げは実質金利が非常に低い中での「少しの調整」に過ぎず、「強いブレーキが景気等にかかるとは考えていない」とも語った。このタイミングでの利上げについて、先行きの急激な利上げを回避するというプラス面もあると指摘。少しずつ早めに調整しておいた方が後で楽になるとの認識を示した」
0.25%の利上げで、騒ぎ立てるほどのことはない。ゼロ金利に慣れた家計と企業を訓練するには、ほどよい「歩行器」となろう。日本が、金利のある世界へ戻ってきたことで、経済の正常化が始まると見ればよいのだ。
(3)「今後の金融政策運営については、「経済・物価情勢に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく方針だ」と語った。次の利上げタイミングについては「前もって決めてパスを思い描いているわけではない」とも述べた。年内の追加利上げの可能性については「データが見通し通りに出て、ある程度の蓄積なら次のステップにいく」と述べ、排除しなかった。決定会合前に、岸田文雄首相や自民党幹部から金融政策の正常化を容認するような発言があったことについて、コメントを控えた。その上で、政府とは日頃から緊密に情報交換しており、経済・物価情勢に関する基本的な認識は共有していると強調した」
金融政策の独立性を考えれば、政府が干渉すべきすべきことでない。記者会見で、こういう主旨の質問をすること自体が、見識を疑わせるものだ。植田総裁が、3月のマイナス金利撤廃の際に見せた「超慎重姿勢」は、政府の立場を配慮しすぎた結果であろう。
(4)「日銀はあわせて26年3月までの国債買い入れ減額計画を公表した。原則として四半期ごとに4000億円程度ずつ減額していき、26年1―3月の買い入れ額を月3兆円程度にするとした。植田総裁は日銀の国債保有残高は買い入れを減額して行っても7―8%の減少にとどまるため、買い入れ減額に伴う金利上昇圧力は「大したものではない」と述べた」
日銀には、これまでの異常円安を招いた一半の責任がある。「金融政策は、為替相場と関係ない」との余計な一言が、どれだけ円安投機を促進したか分らない。今回の異常円安で、日銀も痛い経験をした。異常円安が、輸入物価を押上げ消費者物価の上昇を招くという道筋を忘れてはならない。最後は、金融政策の出番になるからだ。
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