習近平氏は、中国をマルクス主義で塗り替えようとしている。金融機関を「寄生虫」と見ているからだ。国有金融機関に対して、減給や賞与返還を強制している。この裏には、金融の果す機能である「資源最適配分」に理解及ばず、企業の生み出す価値を吸い取っているとみている。中国経済は、いよいよ「闇の世界」へ突っ込んでいく事態になった。
『フィナンシャル・タイムズ』(7月29日付)は、「中国の国有金融機関 減給や賞与返還の動き広がる」と題する記事を掲載した。
中国政府が金融業務の検査対象を投資信託の運用会社や香港拠点の銀行幹部に広げるなかで、中国の国有金融機関が社員に対するボーナス返還命令や給与カットに動いている。
(1)「6月に立ち入り調査と当局の通達を受けた投信運用会社の2人のファンドマネジャーによると、中国本土の国有大手投資信託に勤務する一部運用担当者は、年間報酬のうち290万元(約6150万円)を超える分を返還するよう要請された。2024年分のボーナス支給も遅れているとファンドマネジャーの1人は話した」
国有大手投資信託は、一部運用担当者の年間報酬が年間6150万円を超えれば返還するよう求めている。これは、中国の公務員(医師を含む)の低報酬から比べれば「貰いすぎ」という印象はある。
(2)「国有複合企業、中国中信集団(CITIC)傘下の中国本土にある投資会社と雇用契約を結び、香港に出向している複数の幹部もボーナスの返還を求められたと2人の関係者が明らかにした。国有複合企業、中国光大集団傘下で香港を本拠とする投資会社、中国光大控股の幹部も、ここ数年間に支給されたボーナスの返還を要請されたと関係者2人が語った。国有金融複合企業に対する統制はまず中国本土で強化された後、香港の投資信託運用会社や金融機関の幹部にも検査対象が拡大し、特に中国本土で契約した幹部が標的になっていると銀行関係者らがフィナンシャル・タイムズ(FT)に明かした。通常、国有金融機関が幹部らの報酬を決める際には中国財政省の承認が必要となる」
過去に支給したボーナスの返還とは、穏やかな話でない。明らかに、不良債権の償却原資に充てる計画であろう。
(3)「習近平中国国家主席は、「質の高い発展」を目指す全国キャンペーンの一環として「新たな質の生産力」いうスローガンを掲げ、金融より科学技術や製造能力を重視する姿勢を繰り返し強調している。習氏は富の分配を重視する「共同富裕」も掲げており、金融業界の幹部やその高額報酬を取り締まる動きと合致する。「『共同富裕』実現への取り組みとともに、金融の大部分は『実体』経済活動に寄生しているという習氏の考え方がはっきり見て取れる」と、米カリフォルニア大学サンディエゴ校21世紀中国センターのビクター・シー所長は話す」
このパラグラフは、習近平氏の「頭脳構造」を分析する上で重要である。金融より科学技術や製造能力を重視するのは、「素人考え」であろう。これは、金融の機能を軽視しているからだ。金融が、資源の最適配分を実現する上で重要な役割を果しているとみないからでもある。習氏は、市場経済(金融が仲介)よりも計画経済(政府が決定)を重視する偏った考えの結果だ。
(4)「大手投信運用会社で北京本社に勤務するファンドマネジャーは、投信業界が「新たな生け贄になっている」と言う。「IPO(新規株式公開)を手がけるバンカーが狙い撃ちされ、今度はファンドマネジャーの番だ」。また、「国有金融複合企業傘下のすべての証券会社とその投信部門に影響が及ぶだろう」と北京の国有証券会社の社員は予測する。「まず経営幹部と高給のスタッフが主な対象となったが、今は調査の対象が広がっている。我々の過去5年間の出張経費も一定の基準を超えていなかったかどうか、現在調べられている」と指摘する」
投信運用会社の報酬もチェックしているのは、株式市場を無視している結果であろう。ここまで来ると、中国経済は計画経済入りを宣言するようなものであろう。
(5)「北京の多くの国有銀行は今、さらなる給与カットを検討中だ。事情に詳しい銀行幹部によると、中国建設銀行(CCB)では一部幹部が24年に給与をさらに1割減らされる見通しだ。減給の割合は個人の業績にもよるという。共産党指導部は18日に閉幕した第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の文書で、金融システム改革を継続し、金融のシステミックリスクを予防すると明言した」
金融のシステミックリスクを予防するためには、金融機関の内部留保を手厚くしなければならない。そこで、手っ取り早い方法で賃金カットするもの。玉砕覚悟の「竹槍戦術」である。財政赤字を増やすと習氏の政治責任になるので、行員の負担で不良債権を処理せよというものだ。世も末という印象である。個人消費が伸びない背景だ。
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