中国の住宅不況は、深刻の度を加えている。新規の物件が売れないだけでなく、中古物件まで不況の嵐が及んでいる。そこで、編み出されたのが「偽装離婚」を利用した売買によって、中古住宅の現金化への道である。
夫婦が別れた形を取って物件を全て妻名義にする。妻は物件を「売出」す。夫が、時間をおいて住宅ローンを組んで「購入」すれば、売れなかった物件が「現金化」されるという仕組みだ。こういう実例によって、現金を懐にする夫婦が増え始めたというのだ。世も末である。住宅不況が、こういう歪な偽装離婚を生んでいる。
『日本経済新聞 電子版』(7月31日付)は、「中国でバズる『深圳離婚』、住宅債務が生む都市伝説」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。
中国で驚くべき成長を象徴する巨大都市が、香港に隣接する広東省深圳だ。今、居住人口1700万超の深圳を舞台にした半ば「都市伝説」のような物語が、中国全土に広がっている。名付けて「深圳離婚ブーム」。偽装に近い離婚で、売れないマンションを現金化できるという魔法のような話だ。これが中国の対話アプリ、動画などを通じてバズっている裏には、中国の深刻な住宅・不動産不況で生じたローン債務がある。
(1)「『深圳離婚』伝説が広がり始めたのは2023年秋からだ。不動産事情に精通する中国の企業人が側聞したという例を紹介したい。ビジネスで成功した中年の中国人夫婦(子供1人)は共に資金を出し合い、深圳で日本円換算にして2億円超の豪華マンションをローンで購入した。景気がまずまずだった新型コロナウイルス感染症拡大の前であり、日本円で2億円近いローン債務は問題なく返済できると踏んでいた」
日本円で2億円近いローン債務が、払えなくなったというケースだ。中古マンションを売却したいが売れない。
(2)「ところが、夫婦が営むビジネスは、折からの不況で大きな痛手を被る。そこで虎の子の豪華マンションを売却し、巨額ローンの残債返済とビジネスの運転資金に回そうと考えた。だが、住宅バブル崩壊のあおりで、実勢価格はみるみる下がり、思うような値で売れないばかりか、買い手さえまったく現れない。困った夫婦はそこで一計を案じた。離婚による資金捻出である。まず、夫婦の財産だったマンションは、離婚時の財産分割で全権利を子供の面倒もみる元妻側に渡す。離婚理由は何でもよい」
窮余の一策として「偽装離婚」の道にたどり着く。
(3)「伝統的な家族観が崩れつつある中国の大都市部では離婚は一般的だ。近年、深圳の離婚率は全国でも有数の高さに。一時は結婚した2組の夫婦のうち1組は離婚するとまでいわれた土地柄で、同じ広東省内の大都市、広州よりもかなり高い。離婚申請が偽装かどうか瞬時に見分けるのは難しい。夫婦は一定期間、別居するが、実態はあまり変わらない。しばらく時間を経て、元妻は自分の持ち物である豪華マンションを売りに出す。巨額のローン債務に耐えきれなくなったのが理由だ。ここは真実に近い」
夫は、妻にマンションの所有権を与えて偽装離婚する。
(4)「この偽装劇のクライマックスは、ここで元夫がマンションの買い手として突然、現れる場面だ。厳しかった住宅購入規制は徐々に緩和され、元妻から物件を買う元夫は金融機関で住宅ローンを組める。形式が整い、見合う担保さえあればよい。成約数が統計上、増えるのは当局も歓迎だ。購入時には、物件価格の何割かに当たる頭金をそろえる必要があるが、こちらも徐々に減額され、金利も低下傾向。審査が通れば、マンションの名目資産価値に見合う巨額資金が、元夫婦の手元に入るという皮算用だ」
元妻は、マンションを売りに出すが、そこへ元夫が住宅ローンを組んで購入する。こうしてまんまと「現金化」に成功するのだ。
(5)「この巨額資金は、以前に組んだ元夫婦の巨額ローン債務の返済に充てるほか、ビジネスの運転資金に回す。それでも残れば、外国に持ち出して外貨に交換し、今後、利益を生み出せる海外不動産を購入する選択肢も考える。元夫がローンを返済できず、踏み倒した場合はどうなるのか。中国の金融機関側は、担保であるマンションを差し押さえ、競売に出すことになる。この偽装離婚劇の結末は、元夫婦が持っていた売れない豪華マンションを、金融機関が買い取ったのと同じ構図になる。元夫婦はついに現金化に成功する」
元夫がローンを返済できなければ、金融機関側が担保のマンションを差し押える。こうして不良債権となるのだ。
(6)「こんなうまい話が、数件のまれな例ではなく、大々的なブームにまでなるのだろうか。大いに疑問がある。元夫は社会信用スコアが地に落ちてブラックリストに載る。正常な社会生活を送れなくなるからだ。中国のメディア事情に詳しい人物は「バズっている深圳離婚話の大半は極度に誇張されたものか、ウソだ。ネット上のクリック数稼ぎが目的だろう」と指摘する。一方、別のメディア関係者は「既に中国全土で知られた話だ。誇張があっても『根幹部分はおおよそ真実』と受け止められている。深圳で理由不明の離婚が多いのも事実である」と解説する」
このネット上を駆け巡る話題には誇張説もあるが、「根幹部分は真実」という見方もある。中国の住宅不況にまつわる哀しいまでの話だ。


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