米国大統領選は、民主党の副大統領候補も決まり、いよいよ11月の本選を目指して激突する。民主党はハリス氏がバイデン氏に代わって立候補したので、選挙の行方は振り出しへ戻った形だ。これまで「もしトラ」が、「確トラ」へと実現性が高まっていたが、再び「もしトラ」へ戻ったようである。
日本では、トランプ氏の大統領復帰によって「ドル安円高」期待の声が上がっているが、この裏には金融政策の舵を取るFRB(連邦準備制度理事会)への干渉という最大危機が前提である。米国にFRBが生まれた歴史的経緯をみれば、政治が金融政策へ干渉することがいかに危険であるかが分る。
連邦準備制度理事会は政府機関である。ただし、米国政府は連邦準備銀行の株式を所有しておらず、各連邦準備銀行によって管轄される個別金融機関が出資している。FRB発足当時(1913年)、金融政策について政府の影響を強く受けたが、FRBと財務省が協定を締結(1951年)し、金融政策の独自性を保障されている。
FRBは、大統領に対して政府機関中最も強い独立性を有する一方で、世界経済に対する影響力は絶大であるため、FRB議長は「アメリカ合衆国において大統領に次ぐ権力者」と多くの人々に考えられているほどだ。トランプ氏は、こういう独立性の強いFRBを政治権力に屈服させようとしている。
『ブルームバーグ』(8月10日付)は、「サマーズ氏『がくぜん』、金融政策に大統領の発言権求める『愚か者』」と題する記事を掲載した。サマーズ氏は、元米財務長官・ハーバード大学教授である。
金融政策はいかなる形であっても大統領の影響を反映してはならない。サマーズ元米財務長官はこう警告。そうした行為はじわじわと経済にダメージを与えるだけだと指摘した。
(1)「サマーズ氏は8月9日、「政治家を関与させるのは愚か者の考えることだ」と断じ、「結局はインフレ高進と経済の弱体化を招く」と述べた。米大統領選の共和党候補であるトランプ前大統領は8日、金利や金融政策について大統領が何らかの発言権を持つべきだと述べた。トランプ氏は「私の場合、大金を稼いだ。私はとても成功した」と述べ、「そして多くの場合、連邦準備制度当局者や連邦準備制度理事会(FRB)議長になるような人たちよりも、私は直感に優れていると思う」と語った」
トランプ氏は、生涯において何回も破産している。最後は成功したけれども、それは「ディール」(駆け引き)による。金融政策と駆け引きは別物である。
(2)「現在、ハーバード大学教授のサマーズ氏は、「あまりにもひどい考えに、がくぜんとさせられた」とトランプ氏の提案について語った。常にやるべきことがたくさんある大統領は、あらゆる経済統計を常時分析することに力を入れている連邦準備制度理事会(FRB)のメンバーに比べ、「経済との距離感がかなり遠い」と述べた。世界の国々で中央銀行の独立性が確立されるようになったのは、政治家と金融政策の間に「深い利益相反」があるとの認識に基づいているとサマーズ氏は強調。政権にある者は「常に紙幣の増刷と利下げの誘惑にかられ、景気押し上げのアクセルを深く踏み込もうとする」と述べた」
そう言っては失礼だが、金融政策の専門家でないトランプ氏が、口出しすべき対象ではない。政策判断は、「精緻な科学」である。
(3)「そうした圧力は、人々のインフレ期待を高め、長期金利を押し上げると、クリントン、オバマ政権で経済担当の要職を経験したサマーズ氏は述べた。「インフレは悪化し、二度と順調な生産には戻らない」と続けた。サマーズ氏は、ニクソン元大統領の例を挙げた。ニクソン氏は1970年代初期、当時のバーンズFRB議長に圧力をかけて金融緩和を実行させた。その結果、インフレ性の高い好況不況サイクルが生まれ、米経済に代償を強いた」
金融政策に介入して失敗した例は、ニクソン大統領時代にある。政治が介入してはならないのだ。
(4)「サマーズ氏は、現在の米金融政策について、5日に起きた波乱の後に市場のボラティリティーと株式売りが落ち着いたことを踏まえ、「最新の事実」に基づくと緊急利下げは正当化されないと述べた。「緊急利下げは動揺とパニック、過熱を引き起こし、非生産性につながる」とサマーズ氏。ただし9月の連邦公開市場委員会(FOMC)での「50ベーシスポイント=0.5%の利下げは適切かもしれない」と述べた」
FRBは、9月に0.5%利上げすると予想する。それ以前に繰上げる必要はないとしている。
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