テイカカズラ
   


失業者が増えている中国で、また新たな難題が登場した。ロボタクシー(自動運転タクシー)が、営業運転を始めたからだ。これを横で眺めるタクシー運転手は、複雑な表情である。ようやく得た今の職場をまた失うという「失業恐怖」である。すでに始まっている自動車教習所では、人間よりもAI(人工知能)が人気を得ており、教習所教官は手持ち無沙汰に陥っている。中国は、さらなる就職難に陥ってきた。

 

『ロイター』(8月10日付)は、「中国でロボタクシー加速、配車ドライバーは将来悲観」と題する記事を掲載した。

 

中国の湖北省武漢市で配車サービスのドライバーとして働くリウ・イーさん(36)は、近所の住民がロボタクシー(自動運転タクシー)を呼ぶのを目撃し、自分の身にまたもや危険が迫っていると感じた。以前は建設業界で働いていたが、全国で売れ残りマンションの供給がだぶついて仕事が減ったため、今年からパートタイムでドライバーをしているが、ロボタクシーの普及で仕事を奪われると不安が隠せない。

 

(1)「武漢では、中国ネット大手の百度(バイドゥ)傘下のロボタクシー「アポロ・ゴー」と配車サービスが市場を争っているが、リウさんは「誰もが腹を空かせることになる」と配車サービスの将来に悲観的だ。専門家によると、配車サービスやタクシーのドライバーは世界中の労働者の中で真っ先に人工知能(AI)による失業の脅威に直面している。中国では既にロボタクシーが数千台規模で街を走っている」

 

全自動運転車は、道路構造を変えなければ実現しないという大きな制約条件が課されている。アップルが、全自動運転車の開発を断念した理由はここにある。中国以外で、ロボタクシーが登場する可能性は極めて低い。中国は、「ショウウインドー」的役割を果すだけであろう。

 

(2)「自動運転技術は、まだ実験段階だ。米国が、事故発生を受けて承認手続きを停止したのに対して、中国は試験運行を積極的に進めている。国内で少なくとも19の都市がロボタクシーや自動運転バスの試験走行を行っており、そのうち7都市ではアポロ・ゴーなど5社が人の操作を排した完全自動運転の試験サービスの承認を得ている。5社のうちアポロ・ゴーは、年内に武漢にロボタクシーを1000台配備し、2030年までに100都市で運営する計画を公表済み。トヨタ自動車が出資する小馬智行(ポニー・エーアイ)は300台を運行しており、2026年までに運行台数を1000台増やす予定だ。

 

全自動運転車による事故は、全て自動車側にあるのが常識である。こうなると、簡単にロボタクシーへ進出できない壁がある。中国は、そういう面での規制がないのだろう。

 

(3)「専門家によると、配車サービスやタクシーのドライバーは世界中の労働者の中で真っ先にAIによる失業の脅威に直面している。中国では既にロボタクシーが数千台規模で街を走っている。商業ベースで完全自動運転タクシーを運行している米企業はアルファベット傘下のウェイモのみ。同社元最高経営責任者(CEO)、ジョン・クラフチク氏は「米国と中国の差は際立っている。ロボタクシー開発業者に向けられる視線と業者が越えなければならないハードルは米国の方がはるかに厳しい」と言う。

 

ロボタクシーの進出は、確実にドライバー雇用を減らすであろう。現状では、短距離に限られている。無制限に走行できるのではない。「乗っ取り」という危険性もある。

 

(4)「中国でもロボタクシーの安全性を巡って懸念が生じているが、当局は経済目標達成のために試験を認可し、走行台数は増えている。消息筋によると、一部の中国企業は米国で自動運転車の試験実施を求めているが、米政府は中国で開発されたシステムを搭載した車両を禁止する方針だ。ボストン・コンサルティングのウェグシャイダー氏は、中国が自動運転車の開発に取り組む姿勢を電気自動車(EV)開発支援になぞらえ、「一度やると決断すれば動きは非常に速い」と警戒する」

 

米国は、全自動運転車には極めて慎重である。人命保護が大きな理由だ。

 

(5)「中国の公式統計によると、国内配車サービスの登録ドライバー数は700万人。2年前は440万人だった。配車サービスは景気減速期に稼ぐ最後の手段となることから、ロボタクシーサービスの副作用を鑑みて政府が普及にブレーキを掛けるかもしれないと専門家は見ている。7月には、ロボタクシーによる失業の話題がソーシャルメディアの検索ランキングのトップに急上昇。「自動運転車はタクシードライバーの暮らしを奪っているか」というハッシュタグも登場した」

 

ロボタクシーの普及は、確実にドライバーの雇用を奪う。失業者の多い中国で、ロボタクシーを始めるとは皮肉なことである。話題性を求めているのであろう。