地方財政が成長の犠牲に
「土地本位制」末路哀れ
地方政府リスク負担困難
5割引の保障住宅が火種
中国は、不動産バブル崩壊後遺症への本格的な対策を回避している結果、ますます傷を深めている。これまでは、住宅販売の落込みによる需要減に止まっていたが、しだいに不動産開発関連の不良債権が、信用機構を脅かす経済危機の「第二段階」へ進んでいる。
習近平国家主席は、住宅不況が不動産業界と金融機関の「不始末」によって引き起されたという認識から一歩も出ない状況だ。これが、事態の解決を遅らせるだけでなく、さらなる悪化を招いている。習氏による独裁体制下では、この誤った認識を変えさせる人材が存在せず、時間が無駄に経過するだけだ。中国共産党用語を拝借すれば、「危機の深化」という状態を招いている。
習氏の政権3期目では、西側経済学を理解する幹部が一掃されている。マルクス経済学しか学ばなかった人たちが、政策の舵取り役に代わった。習氏へ的確なアドバイスもできず、「伴食大臣」というイエスマンに堕している。
惜しまれるのは、前首相の李克強氏の死である。習氏の政権3期からは、完全に「追放」される形となったが、引退したとは言えその経済知識によって、習氏へ軌道修正を迫る実力を持っていた。その李氏が、不運にもこの世にいないのだ。
地方財政が成長の犠牲に
中国財政の特色は、中央政府の財政を健全化させ、地方政府へしわ寄せしてきたことだ。中国政府は、対外的に健全財政を謳い文句にしながら、財政赤字を全て地方政府に押しつけてきた。しかも、地方官僚の業績チェック基準が、地域GDPの成長率であったので、隠れ財政赤字をつくって無理矢理に成長率を煽る羽目に陥った。中央政府は、こういう過程で生まれた「隠れ債務」の処理を行わずに放置してきた。今や、のっぴきならぬ局面へ落込んだ理由である。
これが、中国経済危機を「第二段階」へ押上げている。有利子負債である過剰債務の累増は、信用創造機能(金融機関の貸出能力)を棄捐する危険性が高まり、すでにその状況が始まっている。具体的には、マネーサプライ(M2)の極端な伸び率鈍化である。安閑としていられない状態へ落込んでいるのだ。
最大の責任は、2012年以来中国トップを務めてきた習近平氏にある。自らの栄誉栄達を望まずに、中国経済100年の計を考えれば、今こそ不動産バブル崩壊後遺症である不良債権処理を第一義に行うべきである。現実は、真逆の道を歩んでいる。不良債権棚上げという最悪の事態へ移行した。
不良債権は有利子負債である。債務を返済しない限り、永遠に債務は膨らみ続ける意味で「がん細胞」である。外科手術で患部を除去するのが普通だ。不良債権処理には、財政資金投入が不可欠である。地方歳入の柱である土地売却益が減少している以上、新たな歳入を得る手段として、相続税や不動産税(固定資産税)導入が不可避であろう。
習氏には、これら新税導入が政治的理由で困難である。課税対象者の多くが、「紅二代・紅三代」と言われる中国共産党革命期の幹部子弟であるからだ。習氏の有力支持基盤でもある。習氏は、口を開けば「共同富裕論」を唱える。だが、特権階級の「紅二代・紅三代」への課税を忌避した共同富裕論など、論理的にも成立するはずもない。
紅二代・紅三代が、頭抜けた資産家になれた理由は、自己努力でなく「棚ぼた」である。1978年に、改革開放政策へかじを切ると同時に「住宅制度改革」を行い、住宅の私有が認められた。この制度改革で共産党幹部は、タダ同然の価格で多数の国有住宅の払い下げを受けたのだ。それも半端な数ではない。1000戸、2000戸という単位であったという。これら住宅が、その後の不動産バブルでどれだけ値上がりしたか。卒倒するほどの高騰になっている。
不動産専門のシンクタンク中指研究院によると、主要100都市の2024年4月の新築住宅平均価格は、1平方メートルあたり1万6355元(約35万円)である。北京は4万5489元(約97万円)、上海は5万2677元(約113万円)、広州は2万4692元(約53万円)、深センは5万3186元(約114万円)である。
上記の金額を3.3倍すれば、1坪当たりの価格になる。北京320万円、上海373万円、広州175万円、深セン376万円にもなるのだ。これだけの高価な新築マンションを購入できる層はいるのか、だ。国家統計局が発表した、23年の都市住民1人当たりの年間可処分所得は5万1821元(約110万9000円)なので、平均的な収入の人が大都市で新築住宅を購入するのは不可能である。以上は、北九州市立大学教授中岡深雪氏の論考を引用した。
これだけ高騰した住宅を購入できる層は限定される。ビジネスによる富裕層だけでなく、過去に住宅の払い下げを受けた紅二代・紅三代であることは間違いない。習氏は、こうした桁違いの「億万長者」に対して、相続税も不動産税もかけないで「共同富裕論」を唱えている。余りにも現実離れした政策論だ。「身内」の共産党員を庇い、偽りの政治目標を掲げている。(つづく)
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