欧州最大のドイツ経済は、4~6月期GDPが再びマイナス成長へ転落した。インフレ鈍化でも賃上げが追いつかず、頼みの個人消費にも陰りが目立つのだ。GDPで日本を抜いたドイツだが、青息吐息の状態だ。
『日本経済新聞 電子版』(8月11日付)は、「欧州経済『回復失速の兆し』賃上げ追いつかず消費不振」と題する記事を掲載した。
オランダ金融大手INGのシニアエコノミスト、バート・コリーン氏は、「欧州経済はセーヌ川の水質に似ている。一見して良く見える日もあるが、全体では懸念が絶えないほど悪い」と皮肉る。11日に閉幕するパリ五輪では水質の悪化が問題となり、トライアスロンの公式練習が中止に追い込まれた。
(1)「欧州連合(EU)統計局がまとめた4〜6月期のユーロ圏の実質GDPは、速報値で前期比0.3%増だった。プラス成長は2四半期連続で、成長率は年率換算で1.0%だ。ウクライナ危機に伴う急激なインフレが峠を越え、景気底入れの薄明かりが差し始めた。個人消費などが堅調な米国と対照的に、欧州は景気後退の瀬戸際で推移してきた。ロシアのウクライナ侵略に伴う資源高で所得が流出し、一時は貿易赤字が定着。欧州中央銀行(ECB)はインフレ抑制へ急激な利上げを進め、金利負担が企業や家計の重荷になってきた」
欧州経済は、パンデミックとロシアのウクライナ侵攻と二重の経済負担を負っている。急激なインフレも峠を越えたが、病み上がり経済の状態である。
(2)「問題は景気回復の持続力だ。ユーロ圏GDPの3割を占めるドイツは前期比0.1%減と、域内の主要国で唯一のマイナス成長に陥った。フランスの0.3%増やイタリアの0.2%増と対照的で欧州経済の足を引っ張る。独連邦銀行(中央銀行)もプラス成長を想定していた。国際通貨基金(IMF)は7月に改訂した世界経済見通しで、ユーロ圏の成長率が2024年に0.9%、25年に1.5%になると分析した。ECBもほぼ同様の分析で、成長率が1%台に戻るのは25年と時間を要する」
ドイツは、ユーロ圏GDPの3割を占めるが、4~6月期は前期比0.1%減とマイナス成長へ逆戻りである。フランスやイタリアの回復からは遅れている。
(3)「先行きの景気回復シナリオは、不透明感が強まる。ECBのラガルド総裁は7月に「経済成長のリスクは下振れ方向に傾いている」と警鐘を鳴らした。米モルガン・スタンレーは25年の成長率予測を1.1%と従来から0.1ポイント引き下げた。誤算を招きかねないのが、①個人消費の不振 ②投資・生産の低迷 ③保護主義の高まり――という3つの不安材料だ。小売売上高は5月が前月比0.1%増、6月が0.3%減と一進一退が続く。EUの執行機関である欧州委員会はインフレ鈍化による個人消費の持ち直しが景気回復をけん引するとみていた」
ユーロ圏経済の先行きは、ドイツの不調で不透明感が高まっている。個人消費の不振で、投資や生産の低迷を招いている。米国大統領にトランプ氏が復帰すれば10%の関税が負担になる。
(4)「ドイツでは、ストライキによる賃上げで実質賃金が上向きつつあるが、歴史的なインフレに完全には追いついていない。消費回復が持続力を伴うかは不透明感が残る。独連邦統計庁によるとドイツの実質賃金指数は1〜6月平均で102と、新型コロナウイルス禍前の19年の105をまだ下回る。コロナ前の購買力を取り戻すのは早くても25年となる見込みだ」
ドイツの賃上げ率が、物価上昇率を下回っている。これが、消費回復の足かせになっている。コロナ前の購買力を取り戻すのは早くても25年の見込みという。景気回復は、来年までお預けだ。
(5)「政治リスクの高まりも欧州経済の死角となる。11月の米大統領選では、共和党のトランプ前大統領が全輸入品に一律10%の関税を課すと唱えた。工業立国のドイツにとって米国は最大の輸出相手国で保護主義の高まりが直撃する。ドイツ経済研究所(IW)はトランプ氏が返り咲いた場合、4年間でドイツ経済に最大1500億ユーロ(約24兆円)の経済損失をもたらすと試算する。米中の貿易摩擦の激化に巻き込まれる。ハンブルク商業銀行のチーフエコノミスト、サイラス・デラルビア氏は北大西洋条約機構(NATO)の同盟関係やウクライナ支援が揺らげば「地政学上の不確実性が投資に悪影響を及ぼす」と警告する」
欧州は、トランプ氏が復活すると大揺れ必至である。米国から10%関税をかけられ、ウクライナ支援を打ち切られることになれば、経済への影響が大きいからだ。
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