訪日海外旅行客(インバウンド)は、年間3000万人ペースで増えている。すでに国内旅行客を上回るほどの勢いだ。欧米の観光客は、1人平均10泊以上という長期滞在であり、日本にとって貴重な外貨稼ぎ産業になっている。2050年ごろには、現在の3倍以上の1億人前後に達する可能性も取り沙汰されているほど。1億人規模は、フランス並みの水準で、世界トップクラスである。
『日本経済新聞』(8月12日付)は、「インバウンド1億人、『列島改造』迫る」と題する記事を掲載した。
日本政府が、コロナ前に立てた訪日客目標は、2020年に4000万人、30年に6000万人である。このグラフを単純に延長すると、50年には1億人になる。国連は新型コロナウイルス前に国際観光客の増加率を年率3%から4%増と見込んでいた。予測通りなら6000万人から1億人までは20年かからない。
(1)「これは、国内観光客向けインフラへの間借りで対応できる人数ではない。きちんと備えるか、混乱と摩擦が起きてから慌てて対応策を練るか。訪日客と共存する未来を思い描く若いベンチャービジネスが次々に誕生している。料理の食材を表示するピクトグラム(絵文字)を開発したフードピクト(神戸市)。すでに大阪の一流ホテルなどが採用している。言語がわからず、日本の豊かな食文化を楽しめずに帰国する外国人は珍しくない。ピクトグラム表示があれば、宗教などで食べられない食材は自分で判断して避けつつ食を楽しめ、スタッフの負担は減る。「絵文字ならどの国の人にも理解できる」。菊池信孝社長は訪日客の多様化を見据える」
インバウンドが、現在の調子で増えて行くと、2050年には1億人にも達する。今から、増加する外国人旅行客を円滑に受入れる準備を始める必要がある。
(2)「日本文化をもっと体験したいという人向けの宿泊施設の需要も高まる。欧州では城や宗教建築などを高級ホテルに活用する。バリューマネジメント(東京・千代田)はお城に泊まる「城泊」を商品化。料亭旅館や古民家の再生も手がける。「歴史的価値があるのに発揮できていない例は多い」(他力野淳社長)。歴史と文化を経済的価値に変え地域の存続につなげる」
外国のホテル企業は、日本で相次いでホテル建設の準備を進めている。それだけでなく、国内のホテルや旅館との提携にも積極的である。政府は、国立公園内のホテル建設も許可する方針へ変わっている。
(3)「訪日客の増加は、移住を呼び過疎地の活性化にもつながる。瀬戸内海の島々を舞台にした現代アート展、瀬戸内国際芸術祭は「お客もボランティアスタッフも外国人が多い」(総合ディレクターの北川フラム氏)。離島の魅力を知り、日本人だけでなく外国人の移住者も現れた。遠方から長期の周遊客を誘致するために自治体の連携も広がるだろう」
訪日客は、過疎地に興味を持っているケースが多い。過疎地の活性化には良いチャンスである。
(4)「ドイツでは第2次大戦後、地方の町が連携し「ロマンチック街道」を名乗り、米国人や日本人の観光客を集客した。いま島根県と鳥取県が連携し「San‘in(山陰)」を売り込んでいる。キャッチコピーは「ディスカバー・アナザー・ジャパン(もうひとつの日本発見)」。かつての国鉄の名コピーを連想させる」
ドイツの「ロマンチック街道」は、世界的に有名な存在となった。日本でもこの例になって、「地域おこし」の起爆剤にすることだ。日本全国に、候補地は沢山あるはずだ。アイデア競争である。
(5)「明治、戦後に続く第三の開国が始まる。かつては欧州、米国の生活文化を取り入れた。今後の主役は近隣のアジア。続いて存在感を増すのはインド、中東、アフリカの人々だ。米国では今、もう一段の集客増をにらみ、観光業界などで黒人や黒人文化への注目と登用が広まっている。働き手としても含め、こうした地域にルーツや関係を持つ人々への注目度は日本でも高まるのではないか」
日本人の「長命」は、世界に誇れる生活文化の結晶である。日本人が、長生きできる環境や風土を「産業化」すれば、居ながらにしてビジネスになる。要は、工夫しだいということであろう。それには、発信力の強化が不可欠だ。
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