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ウクライナのゼレンスキー大統領は、これまで一貫してロシア侵略への反撃きり札として、米国製戦闘機「F16」の供与を求めてきた。この夢が、ようやく実現の運びとなった。最初の10機がウクライナ側へ供与されたのだ。

 

英誌『エコノミスト』(8月4日付)は、「F16、ウクライナ利するか」と題する記事を掲載した。

 

ウクライナには年末までに20機が配備される見通しだ。残りはデンマークとオランダ主導のいわゆる「F16連合」が供与を約束しており、25年中に順次引き渡される。米国の駐欧州陸軍司令官を務めたベン・ホッジス氏は、ウクライナへのF16供与にこれほど時間がかかったことへの不満は極めて強いと指摘する。戦況に影響を与えるのに十分な数の提供が遅れている理由の一つは、ウクライナ軍パイロットの訓練時間が「深刻に」不足していること、つまり「米政権の政策決定」にあるという。言葉の壁も影響している

 

(1)「F16は実際のところどれほどの変化をもたらすのだろうか。航空戦力に詳しい英国際戦略研究所(IISS)のダグラス・バリー氏は、目先の主な効果は士気向上だと考えている。当初の配備数は少なく、ウクライナはロシア側にプロパガンダ上の勝利を許すような損失を避けるため、使用に慎重を期すとみられる。しかし、変化は少しずつ出始めるはずだ。報道によると、米国はF16に高性能の空対空ミサイル(中距離ミサイル)「AIM120」の長距離版や、「サイドワインダー」の最新版「AIM9X」などに加え、高速対レーダーミサイルを装備している」

 

F16が、ウクライナ空軍へ実戦配備されれば、ロシア軍にとっては脅威である。F16が、性能的に優れているからだ。ただ、当初は配備機数も少ないので、出動回数は限られる。

 

(2)「各機体は、滑空爆弾(一般的に航空機から投下できる短い翼のついた砲弾)「GBU39」を最大4発搭載できるようになる。この爆弾はロシアの同等品より小型だが、精度と射程ははるかに優れている。F16は対人・対装甲車両用のクラスター(集束)弾を搭載することも可能だ。レーダー性能の向上も予定されているという。F16が実戦配備されれば、ウクライナの前線に戦闘爆撃機「スホイ34」を投入しているロシア軍は反撃を受ける可能性が高まり、爆撃するのが難しくなるだろう。ロシアは自国の領空外に出ることなく、粗製ながら効果的な滑空爆弾を毎日100発以上投下している

 

ロシア軍の戦闘爆撃機「スホイ34」は、F16に機能が劣るので、できるだけ出撃を減らして安全を図るとみられる。制空権は、ウクライナ軍が握る形だ。これは、ウクライナ軍にとって大きな転機になる。

 

(3)「元ドイツ国防省のランゲ氏によると、最も重要なのはロシア軍機を遠方にとどまらせ、近づけば撃墜されるリスクにさらすことだという。空対空ミサイル「AIM120D」は独自のアクティブレーダーを搭載した全天候型で、射程は最長180キロメートルに及ぶとされる。ただ、F16の配備は徐々に進むため、大きな影響をもたらすには時間がかかるかもしれない。米戦略国際問題研究所(CSIS)は最近の報告書で、ウクライナには各国がこれまでに供与を約束した数よりはるかに多くの機体が必要だと論じている

 

F16の機数が増えれば、射程が最長180キロメートルの空対空ミサイルを発射できる。安全圏からロシア軍を攻撃できる利点は大きい。

 

(4)「供与を約束された79機のうち、少なくとも10機は2人乗りの練習機だ。また、予備部品の供給源にするしかないほど状態の悪い機体も含まれている可能性がある。ウクライナへの配備数は、34個飛行隊(1個飛行隊の定数18機)分にとどまりかねない。CSISの報告書によれば、ウクライナが局地的な制空権(航空優勢)を確保し、地上戦を優位に進めるには、12個飛行隊以上の能力が必要になる。ウクライナは、フランスとスウェーデンが戦闘機「ミラージュ」「グリペン」の供与に前向きであることをありがたく受け止めている。だが、単一機種で運用する利点から、F16の配備数を増やしたい考えだ」

 

ウクライナへの配備数は、34個飛行隊(1個飛行隊の定数18機)だが、12個飛行隊以上の能力を備えられれば、十分にロシア軍への反撃可能という。

 

(5)「それでも、F16の到着を機に、NATO基準を満たす航空戦力の構築が始まる。ウクライナはF16の充実したサプライチェーン(供給網)に加わることになる。ウクライナ向けのF16には、安全な通信や精度の高い状況認識を可能にするNATOのデータ連結システム「リンク16」も装備される。供与が少なすぎ、かつ遅すぎるとはいえ、F16の重要性を過小評価してはならない」

 

F16の配備は、機数が少なく時期が遅すぎたという批判があっても、これから威力を発揮するという。重要性を過小評価してはならないと指摘する。