中国鉄鋼業界は、不安定な時代に突入しつつある。危機に陥っている国内不動産業界からの需要は期待できず、建設に軸足を置いた政府主導の成長モデルも、財政的にますます維持できなくなっているからだ。河北敬業集団の創業者で会長の李赶坡氏は、6月の民間企業会合で、5年間にわたり続く低迷によって中国製鉄所の3分の1近くが破綻すると警告している。
中国鉄鋼業は、過剰在庫処分で海外市場へ殺到している。これによって各国の鉄鋼価格を押し下げ、製鉄所を廃業に追い込んでいる。失業者が増加しているのだ。中国に端を発する鉄鋼不況が、世界鉄鋼市場を破綻させる危険性を高めている。
『ブルームバーグ』(8月19日付)は、「中国の鉄鋼過剰、世界揺るがす 業界全体が窮地に陥る恐れ」と題する記事を掲載した。
中国は年10億トン余り、つまり、世界の生産量の半分以上を生産している。今、その中国が揺らいでいる。中国が鉄鋼のスーパーパワーになる過程で世界の鉄鋼業界に衝撃を与えたように、そのピークからの退潮もまた、それに劣らない激動を招く可能性を秘めている。中国国内の建設不況が意味しているのは、鉄鋼が多過ぎ、需要が少な過ぎるということだ。各国は中国で余った鉄鋼が自国市場に流れ込み、価格を押し下げ、製鉄所を廃業に追い込み、労働者を失業させるのではと懸念。そうなれば、世界が今直面している経済的課題が一段と悪化することになる。
(1)「中国共産党の習近平総書記(国家主席)は、不動産頼みの経済成長から脱却しようとしているが、これは鉄鋼業界にとって重大な意味を持つ。習氏は今後数十年かけハイテク製造業とグリーンテクノロジーを中国経済の原動力にしたいと考えている。そうした中で、不動産危機によって、鉄鋼需要が急拡大していた長い時代は終わりを告げた。だが、経済と雇用を支えようとする習指導部が、需要縮小をどのように管理できるかを巡っては大きな疑問が残る。ユィ氏は「価格急落に伴い利益率も小さくなっている。中国の鉄鋼需要は先細り」と述べた」
習氏は「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)の輸出に力を入れているが、鉄鋼の過剰生産問題では、これまで手を打たずにきた。
(2)「中国宝武鋼鉄集団の胡望明会長は最近、この課題の深刻さを明確に示した。胡氏は毎年1億3000万トンの鉄鋼を生産する高炉帝国を統括している。この生産量は米国とドイツ、フランスを合わせても及ばない。警告を発したのは胡氏が初めてではないにせよ、中国の鉄鋼セクターが「厳しい冬」に直面していると述べた同氏の言葉には、中国国内だけでなく世界全体が重みを感じた。山西建邦集団も最近、危機感を強調。ソーシャルメディアの微信(ウィーチャット)への投稿によると、鉄鋼業界が現在の苦境から抜け出すためには企業の3割余りが淘汰(とうた)される必要があるとの見方を張鋭ゼネラルマネージャーが15日に示した」
中国鉄鋼業界の3割は、淘汰される運命になってきた。
(3)「コンサルティング会社、上海スチールホームEコマースを創業し、業界に40年携わってきたウー・ウェンチャン氏は「中国の鉄鋼需要はすでに天井を打ち、次は着実に減少していくはずだ」と分析。「製鉄会社間の合併や再編を政府が強力に後押ししない限り、鉄鋼が今後2、3年でこのサイクルから抜け出すのは非常に難しいだろう」と予想した。不動産不況に加え、インフラ財政支出にも陰りが見え始め、製鉄所は右肩下がりの価格下落に苦しんでいる」
中国鉄鋼業界は、3年間で再編整理しなければ苦境脱出が困難になるとの見方が出ている。
(4)「チリ政府は今年、中国からの輸入品に科す新たな関税を急ぎ導入し、製鉄会社CAPの高炉閉鎖をいったんは阻止した。閉鎖の決定を撤回した同社だったが、さらに大きな四半期損失を出すと閉鎖計画を復活させた。その結果、労組リーダーの一人としてメディナ氏(72)は従業員2500人の退職金交渉に追われることになった。また、2万人以上が何らかの関連事業に依存している地元経済にとっても大きな打撃だ」
チリは、鉄鋼所閉鎖によって2500人が退職せざるを得なくなっている。中国の安値輸出の影響だ。
(5)「鉄鋼需要がすでに低迷している欧州では、ドイツのザルツギッターが1-6月(上期)の赤字を報告した際、過剰生産能力と中国の輸出をその理由に挙げた。独経済省はブルームバーグに対し、状況を注視しているとし、「厳しい国際競争」に触れた。欧州トップの鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタルも同じような批判を展開している。ドイツ鉄鋼協会のマネジングディレクター、マーティン・テューリンガー氏は、「われわれの懸念が現実になりつつあることを中国からの警告が示している。過剰生産能力は、この業界の収益性と持続可能性を危うくしている」と述べた」
ドイツ鉄鋼業へも波及している。独経済省や欧州トップの鉄鋼メーカー、アルセロール・ミタルは、中国批判に転じている。
(6)「欧米と中国の間にある現在の貿易摩擦の多くは、21世紀のテクノロジーに集中している。だが、特に米国のラストベルト(さびた工業地帯)や英国の北部イングランドなど歴史ある企業やその周辺に築かれた地域社会に関して言えば、鉄鋼は感情に訴える力を保持している。加えて、国防部門が鉄鋼を必要としていることを踏まえると、鉄鋼は国家安全保障上の問題でもある」
鉄鋼業は歴史的産業であり、国家安全保障上の要である。中国の安値輸出が、この「聖域」を冒せば反発を受けるのは当然である。
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