米国大統領選は、11月の本番を前に民主党ハリス氏と共和党トランプ氏の「死闘」が始まる。ハリス氏は、バイデン氏に代わっての出馬だ。これまで、優勢が伝えられてきたトランプ氏は、ハリス氏の登場で逆転される事態を迎えている。ただ、米国大統領選は、激戦7州の支持率が勝敗を左右するとされている。全国世論調査結果が、そのまま勝敗に結びつかない特殊事情を抱えている。この結果、全国世論調査でも5ポイント以上の差がつかなければ、勝利の安全圏にはならない。
『フィナンシャル・タイムズ』(8月24日付)は、「政治家のまれな資質持つハリス候補」と題する記事を掲載した。
米国の政治がいかに激しく、しかも驚くべきスピードで変化を遂げたのかを象徴するような瞬間がこのほどあった。トランプ氏は、ほんの5週間前、すでに大統領選に勝ったかのような言動をしていた。彼は圧勝するだろうとの声さえあった。だが、突然、一瞬にして代わりばえのしない話ばかりを繰り返す老人となってしまった。
(1)「トランプ氏が、苦労しているのも無理はない。ハリス氏にそうさせる要因があるからだ。中西部イリノイ州シカゴで開催された民主党全国大会では、様々なレベルで従来の党の常識がいくつも覆された。最も感嘆すべきは、ハリス氏の下、民主党が結束したことだった。壇上には1992年に大統領に選出されたビル・クリントン氏から、7月まで大統領を2期全うする意欲満々だったバイデン氏まで、過去30年の間に繰り広げられた民主党の政治ドラマの主人公が軒並み顔をそろえた」
民主党は、これまでイデオロギーの違いからなかなか「一枚岩」になれなかった。それが、「強敵」トランプ氏を前に結束している。目立った造反者はいないのだ。
(2)「ハリス氏が、さえない副大統領からかつてのオバマ氏のような熱狂を巻き起こす候補に変身するとは、ほぼ誰もが予想していなかったことだ。ハリス氏にそんな才能があったとは誰も知らなかった。格言を借りれば、「困難な時が来れば、女性はそれにふさわしく成長する」ということだろう。ふたを開けてみれば、ハリス氏はまれにみる生まれながらの政治家であることが判明したことだ。彼女は2016年の大統領選で敗北したヒラリー・クリントン氏が犯した過ちからも学んでいる」
党大会でのハリス氏の演説は、短く要領を得たものだった。自らの生い立ちを語り、中間層出身であることをアピールした。トランプ氏と対比したのだ。
(3)「ハリス氏は当選すれば米国初の女性大統領(しかも白人ではない)となる。だが、この点を選挙戦の中心には据えていない。16年の大統領選でクリントン陣営は「私は女性であるヒラリー氏を支持する」をスローガンに掲げ、候補者とこれから成し遂げられるであろう歴史的な偉業を前面に押し出した。これに対し、ハリス陣営が打ち出しているのは「ハリス氏はあなたと共にある候補です」というメッセージだ。このメッセージには、トランプ氏がこの大統領選を人種や性の違いを際立たせる醜いアイデンティティー政治の闘いにしたければ勝手にそうすればよい、という意味合いも込められている。ハリス氏は中間層を自分は大事にしていると訴え続けるだけだ」
ヒラリー氏は選挙運動中、「女性」であることをアッピールしすぎた。この失敗の教訓から、ハリス氏は、「あなたと共にある」を強調している。違和感を取り除いているのだ。
(4)「ハリス氏は、愛国主義を大事にするキャンペーンでも成功している。この民主党大会で大観衆が星条旗を振りながら「USA、USA」と連呼するなか、ハリス氏が登壇した際の様子は信じがたいものだった。それは通常、共和党大会で展開される光景だからだ。オバマ氏は08年の選挙戦で米国旗のバッジを着用していないとして批判されたが、ハリス氏は毎回、必ず身につけている」
ハリス氏は、愛国主義を訴えている。「USAコール」が、共和党を凌ぐほどの盛り上がりを見せて会場を沸き立たせた。移民の子弟が、愛国心に訴えている構図をつくり上げた。
(5)「ハリス氏の受諾演説は、中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーで7月に開催された共和党全国大会でのトランプ氏の受諾演説の半分以下に過ぎなかったが、それはハリス氏が分断している米国を統一しつつあるという盛り上がりを象徴するような短いスピーチだった。検察官らしい直接的な物言いで、米国は「この一瞬を逃したら民主主義を守れない。だからみんな、がんばろう」と訴えた。トランプ氏は不真面目な人物だが、彼が再選されたら極めて深刻な事態になるとも説いた。その主張はあくまでも中道だった。「全ての国民にメディケア(高齢者向け公的医療保険)を」にも、開かれた国境や警察への批判、幅広い増税などにも一切言及しなかった」
トランプ氏は、米国を作り替えるような発言をしている。これが、広く民主主義の危機と受け取られている。左右両派を超えて「米国民主主義を守れ」に結集しているのだ。共和党支持者が、ハリス支持を訴えるというかつてない動きを呼んでいる。
(6)「とはいえ民主党が勝利を確信するのはあまりにも時期尚早で危険だ。確かにハリス氏は支持率でトランプ氏がバイデン氏に約5ポイントの差をつけていた状況をひっくり返し、今ではほとんどの世論調査で2〜3ポイントほどリードするまでになっている。しかし、まだ十分とは言えない。ハリス氏が確実に勝利するには、世論調査でトランプ氏に5ポイントほどの差をつけなければならない。米国はまだ共和党支持と民主党支持が拮抗している」
ハリス氏が、勝利を確実にするには全土の世論調査で5ポイント以上の差を付けることだ。そこまで差がつかなければ、勝敗の予測は困難であろう。


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