a0960_006624_m
   

中国は、今年のGDP成長率目標を「5%前後」としている。具体的には、4.5%以上であれば「5%前後」にするのでないかという予測が出始めた。ただ、問題は習近平国家主席が21年に、35年までに経済規模または1人当たり所得を倍増させる長期目標を達成することは十分可能としていることだ。これは、平均で4.8%成長率を達成しなければ不可能な目標である。習氏は、とんだ高いハードルを掲げたものである。

 

『ロイター』(9月2日付)は、「中国の経済成長率『5%前後』目標、大幅未達なら政策変更不可避」と題する記事を掲載した。

 

中国はさまざまな計画や目標を設定するのを好むが、最も注目される今年のGDP(国内総生産)伸び率「5%前後」目標は逆風に直面している。現在の政府はこのような指標をかつてのような強制的な目標ではなく、計画立案ツールとして扱っているとはいえ、景気減速が政策変更を促す可能性はなお高い。

 

(1)「今年第1・四半期の5.3%という目覚ましい成長率を受けて主要銀行から強気な見通しが相次いだ。例えばUBSは4月に中国の成長率予想を4.6%から4.9%に引き上げた。しかし、先週発表されたリサーチノートでは4.6%に戻された。予想以上に深刻な不動産不振が主因という。住宅ローン規制緩和など、政府の支援策強化を受けた追い風も薄れている」

 

今年第1・四半期のGDP成長率が予想以上に高くなったので、IMFも大慌てで今年のGDPを5%台の成長率に上方修正した。本欄は、これが間違いであると指摘したが、状況はその方向に向っている。不動産バブル崩壊という極限状況下で、5%台成長率は過大予測である。

 

(2)「成長率目標のキーワードは「前後」だ。これは、おそらく当局者に十分な余裕を与え、最終的に今年が4.5%を上回れば目標を達成したと主張できるためとみられている。また、政府が第14次5カ年計画(2021~25年)でGDPをどこまで拡大させるべきか数字を示さなかったことも助けになった。しかし、習近平国家主席は21年に、35年までに経済規模または1人当たり所得を倍増させる長期目標を達成することは十分可能と表明。Breakingviewsの試算では、目標達成のためには15年間にわたって約4.8%のペースで成長し続けなければならない。これは大変なことだ」

 

習氏は、なぜ35年GDP目標を立てたのか。習氏が、この年まで国家主席を務めることを内外に知らしめる目標であったのだろう。35年に、習氏は82歳になる。まだまだ現役で第一線に立ち続ける意思だ。問題は、35年までに経済規模または1人当たり所得を倍増させられるかである。目標未達であれば、公約不履行となる。どういう「言い訳」を用意するのか、今から興味深いのだ。

 

(3)「今年の成長率が5%を大幅に下回れば、成長よりもコロナ対応を優先した22年以来2度目の失敗となる。中国の政策当局者は、一時的な問題が構造的な問題に発展するのを食い止めようと躍起になるだろう。消費を促進するため福祉への財政支出を手厚くするなど、政策対応がどの程度強いかによって、その懸念度合いが分かりそうだ」

 

中国のエコノミストは、今後、数カ月間の成長安定化における課題と困難は、かなりのものになるだろうとみている。頼みのインフラ投資は、地方政府の財源不足で進捗率が昨年よりも落ちている。製造業PMI(購買担当者景気指数)は、8月まで連続好不況の50を割込んでいる。年内は後4ヶ月を残すのみである。この状況で、今年4.5%以上の成長率を実現することはかなり厳しくなっている。土壇場にきた現在、習氏はどのような手を打つのか。