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ドイツのVW(フォルクスワーゲン)が、初めての人員整理を検討している。トヨタ自動車に次いで世界2位のVWが、苦境に立たされているのだ。中国での販売も低下しており内憂外患に直面している。トヨタは、EV(電気自動車)の先行投資負担がないほか、EV代替のHV(ハイブリッド車)の売行き好調である。トヨタとVWの差は、さらに広がる。 

『フィナンシャルタイムズ』(9月3日付)は、「VW、ドイツでの工場閉鎖と人員削減を検討」と題する記事を掲載した。 

ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は、創業87年の歴史で初となるドイツでの工場閉鎖を検討している。オリバー・ブルーメ最高経営責任者(CEO)は欧州の自動車産業は「非常に深刻な状況にある」と指摘した。同社は2023年にコスト削減に着手したが、これまでの削減額は数十億ユーロにとどまる。従業員を代表する労働評議会との合意により、従業員の早期退職や自主退職プログラムでしか人員を削減できないことが足かせとなっている。

 

(1)「ブルーメ氏は、「経済環境はさらに厳しさを増しており、新たなライバルが欧州市場に参入している。こうした環境で、企業として断固とした行動をとらなくてはならない」と語った。同社は29年まではドイツで人員削減に踏み切らないとの約束を撤回する方針を示した。労働評議会から反発が出る可能性がある。欧州での電気自動車(EV)の需要が予想を下回り、VWなど欧州の自動車メーカーは打撃を受けている。VWはドル箱市場だった中国でのシェア低下にも苦しんでいる」 

VWは、国内でのEV販売不振と中国市場不振が重なって苦境に立たされている。世界2位の誇りを捨てて、抜本的対策を打つほかなくなった。トヨタとは大きな違いである。 

(2)「同社の主力ブランドであるVWは23年6月、26年までに100億ユーロ(約1兆6200億円)のコストを削減し、営業利益率6.%を達成する目標を打ち出した。24年6月末時点の営業利益率は2.%にとどまる。同社は2日、「(退職者を補充しないという)人口動態の変化だけに基づくリストラでは、短期的な競争力向上のために急務である構造調整を達成するには不十分だった」と語った」 

24年6月末時点の営業利益率は2.%に落込んでいる。自動車メーカーのレッドラインは5%である。これを割込むと研究開発も滞る事態になる。トヨタは、7%台を維持している。

 

(3)「同社のドイツ国内での雇用者数は約30万人と、世界全体の半数弱に上る。同社の株式20%を保有するニーダーザクセン州にとって雇用の維持は最優先事項であり、同州はVWの監査役会で半数の議席を持つ労働評議会の側につくことが多い。ニーダーザクセン州のシュテファン・バイル首相は2日、「VWが行動を起こす必要があるのは明らかだ」と述べた一方、工場閉鎖は選択肢の一つに過ぎないとも語った。同氏は「(工場閉鎖が)起こらないことを期待している」と強調し、同州は「この点に特に注目している」と述べた」 

地元のニーダーザクセン州は、雇用確保から工場閉鎖が起こるか注目している。 

(4)「VW労働評議会のダニエラ・カバロ議長は2日、従業員宛ての文書で、VWの主力ブランドは赤字に転落する恐れがあり、経営陣はドイツの工場閉鎖を検討していると注意を促した。ドイツの規定では、労働評議会は監査役会で労働者の利益を代表する。カバロ氏は「このため、経営陣はドイツの工場、社内の賃金協定、29年末までの雇用保障協定を問題視している」と述べた。カバロ氏はVWのヘルベルト・ディース前CEOと対立し、22年に同氏を退任に追い込んでいる。VWは「極めて緊迫した」財務状況により「自動車生産工場や部品工場の閉鎖ももはや排除できない」と認めた。従業員代表と交渉に入ることも明らかにした」 

VWの主力ブランドが、赤字に転落する恐れが出てきた。これは、一大事である。財務状況が緊迫しているという。

 

(5)カバロ氏は、経営陣の計画は激しい抵抗に遭うだろうと示唆した。「私がついている限り、VWの工場閉鎖はない」と従業員に断言した。欧州最大の自動車メーカーでリストラを巡って対立がくすぶっているのは、国内市場と中国の双方で需要低迷に直面し、新たなライバルが欧州市場に参入しているためだ。比亜迪(BYD)など中国のEVメーカーは欧州に参入する計画を相次いで打ち出しており、VWなどの既存ブランドは低価格EVの開発にしのぎを削っている」 

中国のBYDが、欧州へ工場進出する。VWは、EVで全面対決の局面になる。これを迎え撃つためにも経営をスリムにするほかなくなった。 

(6)「アナリストはかねてVWに対し、EVシフトに多額の投資が必要ななかでコスト削減を果たすために、人員削減に踏み切るよう求めてきた。独立系自動車アナリストのマティアス・シュミット氏は、「VWの文化に大きな変化が起きている」と指摘する。「労組は現実を突きつけられており、今回はリストラに協力的になるだろう」との見方を示した。カバロ氏は工場閉鎖に反対する姿勢をみせたが、米スタイフェル・ファイナンシャルの自動車アナリスト、ダニエル・シュワルツ氏はカバロ氏の語調の変化を指摘した。カバロ氏はVWブランドが直面している問題の大きさを認識しており、ブルーメ氏への直接の批判を避けたという。シュワルツ氏は「労組のこうした反応は非常に心強い」とも述べた」 

労組は、事態の深刻さを理解している模様である。最終的には、工場閉鎖を受入れるのであろう。トヨタの世界独走態勢がさらに強化される。