「日本らしさ」の技術
ラピダスの強みは何か
「縮み志向」が支える
沖縄も半導体へ名乗り
日本政府は現在、半導体企業ラピダスへ出資が可能となる法案を準備している。これまで、財務省と経産省がラピダスを巡って意見が一致せず、財務省はラピダス支援にブレーキをかけてきた。財務省は、ラピダスの最先端半導体「2ナノ」(10億分の1メートル)が、成功するか否か不明という立場である。経産省は成功すると判断し、ラピダスが借入れする際に政府保証を付ける案を検討してきたほどだ。
最近は債務保証どころか、政府がラピダスへ出資する方向へジャンプしている。財務省の「抵抗」をはるかに飛越えるのだ。斎藤経産相は8月30日の閣議後会見で、次世代半導体の量産に向けて政府出資を可能とする法案を早期に国会に提出する考えを明らかにした。斎藤氏は、ラピダスの量産開始予定時期の2027年を見据えて早期に提出したいとしたのである。
政府は、ラピダス支援に向けて「積極姿勢」を取っている背景に、ラピダスの技術開発が想定以上に進んでいることが上げられる。最先端半導体技術で周回遅れと揶揄された日本が、米国IBMからの技術導入のほかに、世界の半導体研究所のノウハウを結集してきた。さらに、日本独自の技術開発思想の「摺り合せ技術」を根幹にして、半導体製造の前工程と後工程を統合し、世界で初めての全自動化に成功する離れ業をやってのけたのである。政府が、こうした技術的見通しがついたことから、「出資」へ舵を切ることになった。
「日本らしさ」の技術
「摺り合せ技術」という言葉が、久しぶりに登場してきた。日本では、トヨタ自動車躍進の原動力として、広く認知されている技術過程である。自動車のように多数の部品(約3万点)から自動車を組み立てる過程では、性能を上げるべく部品間の組合せを最適化する調整技術が不可欠である。一種の「職人芸」である。この「暗黙知」(個人の経験や勘に基づく「コツ」「ノウハウ」など)を制度として共有化し、高生産性をあげてきた歴史を持つのだ。
カリフォルニア大学のウリケ・シェーデ教授は、日本企業の隠れた実力を分析した近著『シン・日本の経営』で日本の製造業に共通した特色の一つは、パラノイア(「偏執狂」)としている。その意味は、「時代の転換点をつくろうとこだわる者たち」を指すという。これこそ、「摺り合せ技術」そのものである。職人芸で、根気強く難問を解く精神性を評価しているのだ。
トヨタでは、部品メーカーとの共同研究を行い、絶えず部品コストの削減を行っている。トヨタの販売最前線から上がってくる情報は、部品メーカーと共有されることによって品質改善とコストダウンに結びついている。これが、「世界一トヨタ」の舞台裏である。
トヨタは、全社であらゆる情報の共有化を行っている。これが、迅速な経営判断に結びついている理由である。世界中の自動車メーカーが、EV(電気自動車)一辺倒になったとき、トヨタは「半身の構え」であった。現在のリチウム電池によるEVが、まだ本流技術でなく過渡的技術であることを知り抜いていたからだ。トヨタは、EVの本命技術である「全固体電池」開発に全力を上げてきた。数年先を読んでいたのである。
ラピダスは、トヨタの出資を受けている。トヨタ式経営手法が、ラピダスへ伝授されたとしても何ら不思議ではない背景がある。ラピダスは、最先端半導体において台湾のTSMCや韓国サムスンの後発である。世間は非情なもので、ラピダスの存在を歯牙にも掛けなかった。ラピダスは、創業に当たり先行2社とは違った道を選ぶし、それに自信があると再三、表明してきた。日本の一般紙は、こういう説明に耳を貸さず、財務省の情報発信にウエイトを置いてきた。
ラピダスは、これまで「トヨタ方式」を踏襲するとは一切言及していない。だが、その経営戦略を辿るとトヨタ方式であることが分る。例えば、小池淳義ラピダス社長は従来の半導体企業が、受注・設計・製造の各部門が独立しており、相互関係が希薄であった欠点を繰返し指摘している。ラピダスは、この体制を打ち破って一体化すると強調してきた。これによって、顧客の意向がダイレクトに製造部門に伝わるのだ。この方式は、トヨタに見られる社内での「情報共有化」に該当する。半導体企業では、革新的な経営改革である。
ラピダスが、世界初の半導体製造工程における「前工程」と「後工程」を一体化する。しかも全自動化であると小池社長が発言している。このとき、小池氏は「素材メーカーの協力を得た」と明確に述べたのだ。ただ、その半導体素材メーカーの社名を挙げなかった。
その後、この素材メーカーが信越化学でないかと推測されるニュースが出てきた。このニュースでも、ラピダスに言及はしていない。ただ、ラピダスが「後工程」の自動化を進める上で信越化学の協力があったと見るべき有力根拠があるのだ。
それは、信越化学が「後工程」のうち、半導体チップを基板に接続する工程を簡略化できる独自の装置を開発したからだ。信越化学の新装置では、中間の工程が短縮でき、半導体製造コストの削減につながるとしている。信越化学は、半導体素材メーカーから半導体製造装置メーカーへ分野を拡大したことになる。(つづく)
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