中国が景気対策で苦悩している。住宅ローンの利下げが、需要喚起策とみているからだが、これで全て解決するわけでない。住宅の長期不況の結果、消費者が買い控えていることだ。購入した後に、さらなる値下がりが起これば損をする。誰も、住宅の「底値」を確認できないところが悩みの種なのだ。
中国社会は、いたって利益に敏感で「投機好き」である。低金利、株安、不動産不況に見舞われている状況で、目新しいことに高いリターンを求める動きが顕著だ。取引実態がよく分からない漢方薬市場で、薬の素材になる薬草や、高級茶葉などへ投機熱が移っている。もはや、住宅投資は興味の圏外なのだ。住宅ローンの二段階下げが、果たして効果を上げるか疑問であろう。
『ブルームバーグ』(9月4日付)は、「中国が2段階での住宅ローン金利引き下げ検討 銀行にも配慮と題する記事を掲載した。
中国は銀行システムの利益圧迫を緩和しつつ、数百万世帯の借り入れコストを引き下げるため、2つのステップを通じ最大5兆3000億ドル(約770兆円)もの住宅ローンの金利引き下げを検討している。
(1)「事情に詳しい関係者によれば、金融当局は住宅ローン借り換えの前倒しを含めた包括策の一部として、全国の住宅ローン金利を合計で約80ベーシスポイント(0.80%)引き下げることを提案している。最初の引き下げは数週間以内に実施され、2回目は来年初めに予定されているという。関係者は非公開情報だとして匿名を条件に語った。この計画は最高指導部からの承認待ちで、まだ最終決定されていないが、ローンの借り手が初めて購入した家に加え、2軒目の持ち家にも適用される可能性が高い。関係者の2人が述べた」
住宅価格が下げ止まらないのは、過剰在庫を抱えている結果だ。値上がりし続けるという「住宅神話」は、もはや完全に消え失せている。それどころか、市民は購入時期を遅らせば遅らせるほど、価格が下がることを知ってしまった状況だ。住宅観の逆回転が起こっている以上、これを止める手立てはない。「底値」を確認できない以上、利下げの効果はないであろう。
(2)「中国当局にとって、国内の金融システムを守りつつ、打撃を受けた不動産市場と経済を支えたい厳しい状況が続いている。過度な金利引き下げは、銀行へのプレッシャーとなる。銀行の金利マージンはすでに6月末時点で過去最低の1.54%となっており、適正な収益性を維持するために必要とされる1.8%を大きく下回っている」
中国の銀行に利下げの余裕はなくなっている。中国の銀行利ざやは、1.80%がレッドラインである。これを割込めば、銀行の連鎖倒産が起こりやすいという事態である。すでに利ざやは、6月末時点で過去最低の1.54%で「危険ライン」を超えている。ここで、大幅な預金利率を引き下げない限り、新たに「0.8%」もの住宅ローン引下げは不可能である。預金利率を引下げれば、さらに消費を切り詰め預金を増やすことになろう。経済には逆効果となる。
(3)「ブルームバーグ・ニュースは先週、銀行が住宅ローンの評価を通常見直す毎年1月の前に、住宅所有者が融資条件を現在の貸し手と再交渉できるようにする計画を当局が検討していると報道。また、世界金融危機以来初めて、別の銀行での借り換えも可能になる方向だとも関係者の話として伝えた」
この案は、さらに銀行へしわ寄せさせるはずだ。「銀行虐め」になろう。銀行の利益が細れば、取付け騒ぎに発展する。現状な、そういう危険な段階である。住宅危機は、財政支出拡大でしか解決できないギリギリの線へ向っている。SOSである。
『ロイター』(9月4日付)は、「中国で薬草や茶葉に投機の波、経済低迷受け」と題する記事を掲載した。
中国では、投機筋が高いリターンを求めて取引実態がよく分からない市場にまで資金を振り向け、中薬(伝統薬)の素材となる薬草や、高級茶葉などの価格が高騰している。
当局は一般の人々に、これらの商品の急な値上がりを巡る熱狂に惑わされないよう注意を促し、投機筋には価格つり上げを控えるよう警告した。
(4)「一部の薬草はこの2年で3倍も値上がりした。何種類かの高級茶葉は、数カ月で値段が倍になっている。背景には、中国株の主要銘柄で構成するCSI300指数が、昨年まで3年続けて下落した後も低調な動きが続いていることや、債券利回りは過去最低圏に下がり、投資リターンを得られる先が限られるという事情がある。7月の新築住宅価格も9年ぶりの下落率を記録し、不動産不況の長期化が改めて示された」
中国は、清の時代に「コオロギ」の良い鳴き声を競って売買する投機が行われていた。最近では、野菜までが投機対象になった。このように、「一攫千金」の夢を追う人たちが極めて多いのだ。中国には、合理的経済計算が成り立たないという側面がある。中国政府が、採算を度外視して全土に高速鉄度網を張り巡らしている。これも、合理的計算が存在しない表れである。
(5)「こうした一般的な市場の低調ぶりが、相応のリターンを求める投機筋を茶葉や薬草の市場に駆り立てているようだと、取引業者は話した。広州市のある茶葉ディーラーは、投機筋は常に存在するが、経済悪化で茶葉市場が彼らにとってより魅力的になっていると明かした」
経済の悪化の下では通常、「賭博的取引」は起こらないであろう。それが、現実に起こっているのだ。ここに、中国に合理的計算が存在しないという特色がみられる。中国経済全体を、この合理的経済計算という資本主義経済の原点から精査すると、信じがたい現象が数多く起こっていることに気付であろう。
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